日本代表が南米の強豪を下した歴史的一戦。指揮官は「犠牲的精神」を強調した (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

 前半19分、無理なサイドチェンジでアルゼンチンがボールコントロールを失ったところだった。右サイドで岡崎慎司が拾い、縦に持ち運ぶ。マイナス気味のクロスをペナルティアークで待っていた本田に通す。これはいったん奪われたものの、そのこぼれ球を後方から長谷部がロングシュートで狙う。そのボールをGKがこぼしたところ、裏を抜け出した岡崎が押し込んだ。

 見事な波状攻撃だった。

「ピッチの上では考えてしまうと、一歩が遅れてしまう。だから何も考えずにボールが来ることを信じてがむしゃらに動いていますね。自分はへたくそだから、とにかくゴールに向かって突っ込もうと」

 殊勲となる得点を決めた岡崎は、2009年時のインタビューでそう語っていた。彼は南米的な要領の良さはない男だろう。しかし、無骨なアプローチにより、その後プレミアリーグ王者のFWにもなった。

「エスパルスはとにかくうまい選手が多くて、当時はぼろくそ言われましたね。俺はそれでも点が取りたかったから、守備的なポジションをやらされても、ゴール前近くに上がって得点を狙いました。相手にボールを取られると、裏を突かれるから大変です。でも全力で戻っていたら、守備の選手も『大変だな』と感心して、そうやって少しずつサッカーを勉強しました」

 その原点を忘れず、岡崎は世界的ストライカーとなった。

 日本はリードした後も、攻めの手を緩めない。本田がFKでブレ玉を飛ばし、交代出場の前田遼一や阿部勇樹が決定的なシュートを放つ。老獪なアルゼンチンを慌てさせた。

「ゴールに向かって戦う姿勢を選手たちには求めた。結果、アルゼンチンを相手に臆することなく自分を表現し、積極的にプレーしてくれたと思う」

 ザッケローニは1-0で勝利した試合後、そう振り返っている。

「選手はやるべきことをやっていた。犠牲的精神はひとつのキーワードになるだろう。攻撃陣は前で体を張ることで、中盤とディフェンスラインを助けると同時に、ボールを高い位置で奪ってはゴールチャンスにつなげていた。攻撃陣と守備陣がお互い補完関係を作ることで、攻撃的な戦いが可能になったのだ」

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