なでしこ、東京五輪メンバー選考の裏にあった3人の物語。変化で目標を叶えた者と忘れてはいけない人物 (3ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 そしてもう一人、忘れてはいけない人物がいる。高倉麻子監督は発表の会見で「ここに名前がない選手たちの努力があったから、この18名がいる」と表情を引き締めた。その言葉に最も当てはまるのが鮫島彩(大宮アルディージャVENTUS)だろう。いつもは個人の評価に対して慎重に言葉を選ぶ高倉監督だが、鮫島に関しての発言には熱情が混じっていた。

 勝利から見放された時、失点の連鎖にハマった時、課題が生まれるとミーティングで一つずつ解決していった。その中心にはいつも鮫島がいた。「無駄に経験があるだけに押しつけにならないよう、みんなの意見を出し合って答えを見つけたい」(鮫島)と何時間も映像を見返した。

 しかし今回、最終18名の中に鮫島の名はなかった。「なかなかのどを通らないゴハンを最後まで食べている姿や一人でケガの治療しているサメの後ろ姿を見てきた」と高倉監督は、ピッチを離れた際の鮫島の立ち振る舞いもすべて理解していた。その上での選択であり、苦渋の決断だったことを明かした。

 なでしこジャパンをもう一度世界と戦えるチームにする----そのために一切の労を惜しまなかった鮫島の存在に代わるものはいない。この"不在"を選ばれた選手たちは力に変えなければならない。暑さの中、足が止まりそうになった時、選手たちには彼女の声を思い出してほしい。

 鮫島だけでなく、多くの選手がこの18名で創る最終形のなでしこジャパンのために関わってきた。"誰かのためにプレーする"ことで強くなるのがなでしこジャパン。オリンピックでは、その神髄を見せてほしい。

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