日本サッカー界の名将たちを育て上げた男。その指導から考える真の「育成」

  • 木村元彦●取材・文・写真 text & photo by Kimura Yukihiko

今西和男――。

サンフレッチェ広島で日本初のGMとしてその手腕を発揮し、サッカー日本代表の森保一監督らをはじめ、風間八宏、高木琢也、森山佳郎など日本サッカー界で活躍する名将たちを育て上げた人物である。

スポルティ-バでは、今西の人生を追った連載『育将・今西和男』を2015年よりスタート。単行本『徳は孤ならず 日本サッカー界の育将 今西和男』にまとめあげ、今年2月には文庫本が小学館より発売された。

今回、その文庫版で解説を務めた平尾剛(元ラグビー日本代表、現在は神戸親和女子大学の発育教育学部ジュニアスポーツ教育学科教授)と著者の木村元彦が作品の内容に触れつつ、日本スポーツ界の育成について語り合った。

日本サッカー界の育成について語った平尾剛日本サッカー界の育成について語った平尾剛

平尾 『徳は孤ならず』を拝読して思い出したんですが、自分の年下の知り合いも今西和男さんの下で働きたいということで、1年間大学を休学して、今西さんが社長をしていたFC岐阜に行っていたんですよ。

木村 そうですか。選手のみならず、チームスタッフやドクターに至るまで今西チルドレンを自称する人が全国にいますね。サッカーの日本代表戦が久しぶりに行なわれましたが、日本代表の森保一監督も今西さんが、無名だった高校時代に潜在能力の高さを見抜いてサッカー部の入社枠の最後にマツダに引っ張ったことで知られています。

 平尾さんは自身の専門がスポーツ教育学じゃないですか。スポーツで人を導く、教えていくということを研究していて、その平尾さんが、今西さんは平尾誠二さんとすごく通じるものがあると(『徳は孤ならず』文庫版の)解説に書いておられましたが、誠二さんも選手の現役パフォーマンスだけではなく、人生そのものを見ていたという方なんですか?

平尾 はい。自分のチームのことだけではなくて、選手の引退後のことまで考えて見てくれていて、そこが今西さんに似ているんですよ。僕は大学卒業時に、平尾(誠二)さんがいた神戸製鋼と三菱自動車から誘われていたんです。当時の三菱自動車は、チームは弱かったのですが、仕事とラグビーを両立する社風でした。ラグビー部出身者でも引退後は要職に就いていたり、それなりに出世してる方がたくさんおられたので、セカンドキャリアを考えて三菱を選んだんです。

 ただ、三菱に入社してすぐ日本代表候補に選ばれました。日本最高レベルを経験して心が躍りました。ここでやりたい、日本代表選手になりたい。生まれて初めてそう思いました。ただチームに戻るとやはり物足りない。自分で選択した道だからこのチームで上手くなるんだと意気込むんだけど、なかなかうまくゆかない。そうして1年ほど逡巡していたところに、再度平尾さんから、声をかけられたんです。「いまでも、とるぞ」って。自分の誘いを一度断った選手を救うというのはなかなかできないことですよ。

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