2020.06.01
日本サッカーの未来が懸かった一戦。
窮地を救ったカズの魂の右足

- 後藤健生●文 text by Goto Takeo
- photo by AFLO
そして、迎えた広島アジアカップ。代表への期待は大きく膨らみ、連日多くの観衆が詰めかけ、歌を交えた応援でバックスタンド全面が揺れる光景は、それまで日本では見ることのできないものだった。
「サッカーのプロ化は成功しそうだ」と誰もが信じていた。
だが、地元開催のアジアカップでグループリーグ敗退に終わってしまったら、そんなサッカー界全体の盛り上がりに水を差されてしまう。イランに勝つことができるかどうか、残り時間にイランの堅守を破ることができるかどうか......。日本サッカーの将来が懸かっていると言っても過言ではなかった。
オフト監督は68分にベンチにいたラモス瑠偉と"スーパーサブ"の中山雅史を投入するが、それでもゴールは遠く、82分の中山のヘディングシュートも右ポストをかすめただけだった。
スコアレスのまま、時計の針は87分を指していた。イラン陣内でボールを受けたDFの井原正巳が、アウトサイドに掛けたスルーパスを前線に送ると、ボールはイランのDFラインの裏へバウンドしながら抜けていく。そこに走りこんだのがカズだった。
「ボールが弾んだのがラッキーだった」とカズ。
カズは、落ち着いてボールをコントロールすると「魂を込めて」右足を振りきった。ボールはGKアベドザデの肩口を抜いてイランゴールのネットを大きく揺らした。