ドイツW杯、稲本潤一は選手として我慢すべき一線を越えてしまった (2ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・構成 text by Sato Shun
  • photo by Kyodo News

 そうした状態のなか、2戦目のクロアチア戦を想定した紅白戦も行なわれた。それは、とても"練習"とは思えない、激しい戦いになった。

 選手同士が激しく言い争って、他の選手たちが止めに入るシーンも見られた。サブ組からは「レギュラー組をしっかりサポートする」といった意識が徐々に薄まり、そこには対抗意識すらあったかもしれない。

「紅白戦では、『レギュラー陣を食ったろうか』くらいの勢いと厳しさでやっていた。こっち(サブ組)は本気でやっていたんで、もうバチバチの戦いやったね。(サブ組としては)やっぱり試合に出たいという気持ちが強かったし、紅白戦でこっちがよければ、(試合に出る)チャンスがあるんじゃないかって思っていたんで」(稲本)

 選手としては、当然の心理だろう。

 W杯に出場し、試合に出たくない選手などいない。また、稲本らがプレーしていた欧州では、監督へのアピールとして、戦う気持ちを前面に出してプレーするのは当然のこと。つまり、サブ組は当たり前のことをしていただけ、とも言える。

 だがこの時は、次戦に向けて、チーム一丸となって盛り上げていかなければいけない状況でもあった。

「やっぱり(試合に)負けると、いろんな声が出るんですよ。(当時は)紅白戦でも、サブの自分らのほうが勝っていたから、『僕らが(試合に)出たほうが勝てるんちゃうか』と思っていた。初戦で敗れて、その思いを強くした選手もいたんじゃないかな。

 自分も含めてみんな、チームを第一に考える意識が足りていなかったかもしれない。それは、日本代表の選手としては恥ずかしいことやけど、当時は若かったんで、(みんな)自分のことばかり考えていた。

 自己犠牲の気持ちを持って『チームを立て直していこう』とする選手、それから、率先して『(選手みんなが)まとまってやろうや』と言う選手も、レギュラー組にも、サブ組にもおらんかった。そもそもこのチームは、そういう人選をしていなかったからね」

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