鈴木啓太が惨劇に呆然。アジア最終予選でアテネ五輪代表を襲った危機 (4ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・構成 text by Sato Shun
  • 甲斐啓二郎●撮影 photo by Kai Keijiro

 成岡や菊地の他に、森崎浩司や平山相太らは重い症状に苦しんだ。その一方で、田中や今野泰幸、前田遼一、そしてキャプテンの鈴木は病魔の難を何とか免れていた。

「みんな、同じものを食べているのに、下痢で苦しむ選手がいるなか、僕や今ちゃん(今野)のように元気な選手もいる。『おかしいな』って思いましたよ。ただ、僕は当時からお腹の調子を整えることには気を遣っていて、梅干しとか腸内調整のサプリメントを持参していたんです。そういうのもあって、下痢にならなかったのかもしれないですね」

 大一番を迎え、ボランチの鈴木と今野は何事もなくプレーできる目処がついたが、山本監督は青白い顔をした選手を前に、「前半は0-0でいい。絶対にやられないこと。我慢して戦おう」と伝えた。

 相手はグループ最強のUAE。しかし、チームは体調不良の選手を大勢抱え、普段のパフォーマンスの半分も出せればいい状態だ。もはや、戦術面における選択の余地などなく、前半は耐えて、後半のラストに勝負をかけるしか、勝つ術はなかったのだ。

「チーム(のコンディション)は最悪の状態だった。でも、そんなことを言っている場合じゃない。闘莉王は『やるしかない。勝つぞ!』と言っていたけど、本当にそのとおり。苦しい状況に追い込まれたけど、僕らはやるしかなかった。ここで踏ん張らないとアテネには行けない。負けたら、自分たちの世代が終わってしまうと思っていました」

 試合前、アップから戻ってくると、選手たちが次々にトイレへ駈け込んでいった。鈴木もスタジアム内のトイレに行くと、これまで見たことがないような光景が広がっていた。

「そんなに酷いのかよ」

 鈴木は決戦前、あらためてチームの惨状を目の当たりにしたのである。

(つづく)

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