鈴木啓太が惨劇に呆然。アジア最終予選でアテネ五輪代表を襲った危機 (3ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・構成 text by Sato Shun
  • 甲斐啓二郎●撮影 photo by Kai Keijiro

 第2戦は、レバノン戦だった。

 田中達也が先制ゴールを決め、鈴木も追加点を挙げるなど活躍し、4-0と完勝。勝ち点3を獲得した。

「レバノン戦は、みんな必死だった。ギアを2つぐらい上げて戦った。ここで粘って勝てたのは、大きかったし、次のUAE戦に向けて、いい弾みがついた」

 日本はレバノンに勝って、1勝1分け、勝ち点4とした。一方、UAEはレバノン、バーレーンに連勝し、勝ち点6でグループ首位に立った。

 2位の日本との勝ち点差は2。だが、次の最終戦で日本がUAEに敗れると、勝ち点差は5に開く。そうなると、日本ラウンドでの直接対決を制しても、引っ繰り返せなくなる。日本は、最低でもドロー以上の結果が求められた。

「UAEが(グループの中で)一番強いのはわかっていた。でも、僕はあまり負ける気がしなかった。代表チームって、試合をこなすごとに成長していくじゃないですか。(このチームにも)そういうのを感じていたからだと思います」

 日本は、UAE戦に向けて高いモチベーションを維持して、いい調整ができていた。ところが、試合前日、チームに異変が起こった。

 練習中から腹痛を訴える選手が続出したのだ。そして、時間が経過するごとに、下痢と微熱の症状を訴える選手が増えていった。すると、夜には宿舎のメディアカルルームが"野戦病院"状態となり、日本チームは大変な状況に陥った。

 さらに、時間が進むと、重症な選手が出てきた。成岡翔と菊地直哉はほとんど体を動かせない状態になっていた。とくに成岡は、体調の回復が見込めないとのことで、試合当日にチームから離脱し、緊急帰国したほどだ。

 指揮官である山本監督は、大事な試合の前の、まさかの事態に「2年間準備してきて、これかよ......」と、運のなさを呪った。チームドクターが投薬などで懸命の処置を行なっていたが、選手の状態は悪くなる一方だった。

 鈴木は最初、何が起こっていたのか、わからなかったという。

「下痢の症状が、みんな一斉に出たわけじゃないんですよ。練習している最中から、『お腹が痛い』という選手が出始めて、だんだん下痢で倒れていく選手が増えていく感じだった。しかも、何が原因なのか、はっきりわからなかった。その時のメディカル担当の話では、『食べ物に何かを意図的に混入するのはあり得ない』ということだったけど、あとで(原因は)野菜を洗った水の可能性が高い、といった話を聞きました」

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