屈辱を糧に。中山雄太はセレソンを奈落の底に突き落とした (2ページ目)

  • 飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi
  • photo by AFLO

 もうひとつは、4カ月前の苦い経験である。

 6月にブラジルで開催されたコパ・アメリカに出場した中山は、柴崎岳(デポルティボ・ラ・コルーニャ)とボランチでコンビを組み、チリ戦のピッチに立った。だが、代表デビューとなったこの試合で21分にイエローカードを提示されると、それが足かせになったのか、激しいプレーを見せられなくなってしまう。

 したたかで、試合巧者のチリに対してチーム全体で必死に食らいつくなかで、本来の力を見せられないまま90分を過ごした中山は、中継の解説者から苦言を呈され、サッカーファンからも容赦ない批判を浴びた。

 もっとも、不甲斐ない出来に終わったことは、中山自身がよくわかっていた。

 チリ戦後、自身のパフォーマンスに関して「評価する材料もない」と切って捨てたのだ。いつもどおりポーカーフェイスを崩さず、努めて冷静に語ったが、その言葉には落胆の色がにじんでいた。

 それから4カ月、中山はその屈辱を自身の成長の糧にしてきた。ブラジル戦の4日前に中山が告白する。

「コパでの経験は、あのあと、自分のなかですごくモチベーションになったんです。苦しい時、キツい時、なぜか、コパの映像が蘇ってきて。何クソ精神ではないですけど、パワーに変えられたのかなって。

 よくなかったのはわかっているし、それは自分でも受け止めていた。でも、それで終わりじゃないというのも確かで、あの経験を生かそうと思ってやってきた。あの経験を、今でも忘れていない。それは、自分にとって大きなことだと思います」

 その思いが生かされたのが、まさにこのU-22ブラジル代表戦だった。

 ミドルシュートを叩き込んだだけでなく、中盤でブラジルの選手たちに身体をぶつけてボールを奪い合い、自陣のペナルティエリアから敵陣のペナルティエリアまで顔を出し、攻守にわたってチームを引っ張った。

「コパのチリ戦ではうまくいかなかったですけど、今日はボールを奪えた。とくに中盤でしっかり奪えることが多くて、手応えを感じられました。こうしたシーンをもっと増やしたいし、もっと早い時間帯からこうしたプレーを見せたい。チームが苦しい時に助けられるようになりたいですね」

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