モンゴル代表の足下を支えた
関西スポーツ店とモンゴルリーガーの奮闘

  • 鈴木智之●取材・文 text by Suzuki Tomoyuki

 関係各所に話を通し、ゴーサインが出たのが10月2日。そこからシューズを手配し、モンゴル代表が宿泊する、都内のホテルにシューズが届けられたのが10月7日。日本代表との試合の3日前だった。

 綱渡りのように物事を進め、代表チームが宿泊するホテルにスパイクが無事到着。ホッと胸を撫で下ろしてホテルでコーヒーを飲んでいた渡邉と砂原のもとに、モンゴル代表のミヒャエル・ワイス監督からリクエストが届いた。

「取替式のスパイクも用意してくれないか?」

 渡邉と砂原は顔を見合わせた。2日間で、選手全員分が集まるのか――。

 スパイクには固定式と取替式の2種類がある。固定式は足の裏のスタッド(突起)が固定されているもので、短い芝生などに適している。取替式はスタッドが変更可能で、グリップが効く。そのため長い芝や、濡れたピッチに適している。

 ワイス監督は2001年から2004年シーズンまで、京都サンガでコーチを務めていたため、W杯予選の会場、埼玉スタジアム2002のことを熟知している。「試合前にピッチに水を撒くと濡れて滑る。固定式だと心もとない」というのが理由だ。

 10月7日の夕方、モンゴル代表の選手がアシックスのスパイクのフィッティングをしている頃、渡邉と砂原は取替式のスパイクの手配に奔走した。

 翌日、茨城の倉庫から東京へ取替式スパイクを輸送する段取りが整った。渡邉と砂原は都内の受け渡し地点で受け取り、スパイクを大量に抱えて電車に乗っていると周囲から奇異の目で見られたが、気にしてはいられない。固定式と取替式、サイズ変更用、コーチングスタッフ用も含めて、その数は73足。足下のコンディションは整った。

 10月9日、日本代表との決戦を翌日に控え、モンゴル代表は埼玉スタジアムで練習を行なった。ピッチに登場した選手の足下は、固定式の赤、取替式の白。渡邉のチームメイトで、守備の要でもあるセンターバックのトゥルバド・ダギナーは「明日は南野(拓実)選手の突破を止めたい」と闘志をみなぎらせていた。

 準備はすべて整ったが、渡邉には不安があった。「せっかく用意したのに、選手が履かなかったら、協力してくれた人たちに申し訳ない」。アシックスとモリヤマスポーツの協力を得て、全員分の固定式と取替式のスパイクを用意したはいいが、試合での着用を強制するわけにはいかない。慣れ親しんだスパイクを履きたい選手もいる。わずかなフィット感がプレーの質を左右することは、サッカー選手である渡邉もよく理解している。

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