モンゴル代表はかつての日本代表。
格下と対戦するW杯2次予選の価値

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 10月10日、埼玉スタジアム。カタールW杯アジア2次予選の試合前に、モンゴル代表のメンバー表の訂正があった。係の女性が新しい用紙を記者席で配り歩いていた。第3ゴールキーパー、「サイハンチュルーン・アマルバヤスガラ」が、「サイハンチュルーン・アマルバヤスガラン」になるという訂正だった。選手名の訂正は大事だが、気に掛ける人はほとんどいない。

「ポルシェに、トヨタの小型車がレースを挑むようなもので、勝てる見込みはなかった」

 試合後、モンゴル代表を率いるドイツ人指揮官ミヒャエル・ワイスは語った。しかし、日本との実力差はそれ以上。同じステージに上がっていることに違和感があるほどだった。

 この日、FIFAランキング183位のモンゴルは、日本に対してまったく太刀打ちできていない。そもそも体格的に劣っており、プロの体からはほど遠かった。たとえば、中島翔哉に対して2人がかりでマークするも、子ども扱いで置き去りにされた。技術的には、日本のJ1クラブユースの選手にも劣るレベルだろう。戦術的にも未成熟で、プレッシング、リトリートの線引きがはっきりせず、それぞれがばらばらに奮闘。エリア内で自由にシュートを打たれる場面が連続した。

 結果、モンゴルは6-0で大敗。シュートは1本も打てなかった。明らかなワンサイドゲームだ。では、この試合に価値はなかったのか?

W杯予選で日本に大敗したモンゴル代表W杯予選で日本に大敗したモンゴル代表 試合後の記者会見で、モンゴルのワイス監督に質問が飛んだ。

――モンゴルではスパイクを売っている店がなく、代表選手も海外遠征でスパイクを購入しているとか?

 ワイス監督は英語で答えた。

「日本のような専門店がないだけで、スパイク自体は買えます。ただそれだけ、環境は違うという話ではあるでしょう。2年半、私は指導してきましたが(2017年1月に代表監督就任)、モンゴルはサッカーでは小さな国というより、小さなコミュニティーで。ベストの選手を選ぶと、30人で収まってしまう」

 モンゴルサッカーは、まだ黎明期にある。代表チームが使用するナショナルスタジアムも人工芝。それも状態はよくないと言われる。そもそも、W杯1次予選を勝ち抜いたのが初めてのこと。あらゆる面で遅れている現状がある。

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