なでしこ熊谷の涙。若手のチャレンジを支えたベテラン4人の想い (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 喜びに沸くオランダ選手の隣で熊谷は天を仰いだ。個性豊かで若い世代の多くなったなでしこジャパン。熊谷は、8年前の世界一の景色を知る者として、また世界最高峰のクラブチームで戦う者として、厳しさを伝えることもしてきた。「まとまるのが難しいチームだったけど、最後までついてきてくれてありがとう」と、仲間への感謝の気持ちを気丈に述べた。

 しかし、リヨンのチームメイトであるヴァン・デ・サンデンと健闘を称えあうハグをすると、瞬く間に涙が溢れ出た。クラブではベンチを温めることも多かった同僚の前では、感情をとどめておくことができなかった。そんな熊谷の苦悩をまるごと包み込むようなハグだった。

 鮫島彩(INAC神戸)は、ピッチに座り込んで両足を見つめ続けていた。いつもであれば、落ち込む若手に声をかけて回る。そんな鮫島が動くことができなかった。

「この大会で最後になってもいいというくらいの覚悟で臨む」と、自らを奮い立たせてきた鮫島。強豪と戦う前には一度は必ず怖さを感じながらも、それを払拭するために対策を練って対峙する生真面目さと、誰よりも速いスタートで攻撃参加をする。思い切りのよさを持ち合わせた最年長プレーヤーは、力の限りを尽くした結果をどう受け止めていいのかわからないようだった。

 ケガで途中から別メニューを余儀なくされ、出場の機会なく大会を終えた宇津木瑠美(シアトル・レインFC)は、常にチームにハッパをかけ、落ち込みそうになる若手の気持ちを懸命に引き上げてきた。最後のピッチでは、打ちひしがれる清水梨紗(日テレ・ベレーザ)と籾木を両腕に抱えながら、挨拶のためスタンドへ向かっていた。何かを語り、諭す訳でもなく、ただ2人の肩をしっかりと抱きながら寄り添っていた。

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