福田正博は考える。日本人はロングボール戦術を採用すべきか?

  • 津金壱郎●構成 text by Tsugane Ichiro photo by Getty Images

 総務省発表によれば26歳から29歳の日本人男性の平均身長は170cmで、これは180cm以上のオランダやドイツと比べるべくもない。日本人選手の弱点は"高さ"にあり、海外の強豪相手に空中戦で競り勝つのは容易ではない。この点で考えると、W杯で対戦した時のベルギーのようなロングボール戦術は日本代表には向いていないと考えるべきだろう。

 Jリーグであれば、日本人のこの弱点を突くための選手補強をした編成で優勝に近づくことができる。2006年の浦和レッズ、2010年の名古屋グランパスがその好例で、センターフォワードとセンターバックに"高さと強さ"で圧倒できる選手を置き、栄冠を手にした。1トップには、浦和は元ブラジル代表で190cmのワシントン、名古屋は当時オーストラリア代表の194cmのジョシュア・ケネディを据え、センターバックには185cmある田中マルクス闘莉王(現京都サンガ)がいた。ただし、こうした高さと強さは国内リーグ戦では"ストロングポイント"になるものの、世界を見据えた場合にはアドバンテージになりにくいという課題は残る。

 現在のJリーグでは、川崎フロンターレを始め、ヴィッセル神戸や名古屋、横浜F・マリノスなど、「ポゼッション」を志向するクラブが増えている。その理由は、「高い技術を生かしたパスワーク」という日本人が得意なことを生かしながら、強豪国ほど高さがなく、フィジカルも強くないという日本人の弱点をカバーできるからだ。

 選手たちの足元の技術の高さを生かして主導権を握り、ボールを保持する時間が長くなれば、それだけ守備の時間が短くなる。つまり、攻守は表裏一体で、ポゼッションして攻撃時間が長くなることで守備のリスクが軽減するという狙いもある。これは、ボール保持率の高いバルセロナにもあてはまることだ。

 一方で、日本のサッカーファンは、ゴール前に放り込むロングボールの「好きか嫌い」と、「効果的か否か」を混同している人が多いようにも感じる。もしかするとヨハン・クライフの『美しく勝利せよ』に影響を受けていることもあるのかもしれない。

 私自身、クライフの唱えたトータルフットボールや、バルサのスタイルはすばらしいと考えているし、日本サッカーが目指す方向だと思っている。同時に、元プロ選手として、勝たなければ何も残らないことを知っているからこそ、ときとして美しさが犠牲になることがあっても仕方ないとも思う。

 たとえば、アジアでの戦いはグラウンドのコンディションが国内のピッチのように整備されていないこともあり、芝が長いためグラウンダーのパスが止まったり、ピッチに凸凹があって予期せぬ方向にパスが跳ねたりもする。つまり、高さと強さでアドバンテージがない日本代表でも、ロングボールを選択すべき状況はあるということだ。

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