2004年アジア杯準決勝、奇跡の逆転勝利をもたらした宮本恒靖の独断 (2ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 甲斐啓二郎●撮影 photo by Kai Keijiro

 それまでの試合では、立ち上がりから相手に押し込まれると、ズルズルと下がってしまっていた。その結果、グループリーグのタイ戦、準々決勝のヨルダン戦と、相手に先制点を許してしまった。そこで、「暑いし、疲れているのはわかるが、もっと前から守備をして、積極的な試合の入り方をしていこう」と、出場メンバーで共通認識を持つようにした。

 しかし、再び先制ゴールを奪われて、なおかつ、10人での戦いを余儀なくされてしまった。前半は0-1で終了し、かなり厳しい展開となった。

 それでも後半、地力で勝る日本は中田浩二が同点ゴールを決めて、玉田圭司のゴールで逆転した。ひとり少ない状況にありながら、流れを引き戻したかのように見えた。ところが、後半26分にミスから失点して同点に追いつかれると、後半40分、ついに逆転ゴールを許した。

 逆転されたショックと疲労で、選手たちはがっくりと肩を落とした。そんななか、宮本はポジティブな思考でいた。

「あの時間帯で逆転されたことは、たしかに厳しいなって思いました。でも、大会に入ってから(厳しい状況のなかで)グループリーグを勝ち抜き、危うかった(準々決勝の)ヨルダン戦にも勝って、なにか難しいことが起こっても、それをひっくり返す力が(今のチームなら)あると信じることができたんです」

 刻々と時間が過ぎていくなか、勝つためにはどうしたらいいのか――宮本はボールを追いながら、懸命にその策を絞り出そうとしていた。すると、パッとひらめいたという。

「(中澤)佑二、前に行こう」

 ジーコ監督からの指示ではなく、宮本は自らの判断でセンターバックの中澤に前線に行くように命じたのだ。

「2002年日韓共催W杯の(決勝トーナメント1回戦の)トルコ戦で、0-1で負けていたときに、ベンチから指示がなくても、マツ(松田直樹)を前に上げるとか、ロングボールを入れるとか、最後に変化をつけることができなかったかなって思ったんです。そういう経験が自分の引き出しの中にあったので、ベンチからの指示を待つことなく、佑二に『前へ行け』と伝えた」

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