28年ぶりの快挙に沸く日本。前園真聖はアトランタ五輪で何を学んだか (5ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 甲斐啓二郎●撮影 photo by Kai keijiro

 第2戦のナイジェリア戦は、勝てば決勝トーナメント進出が決まる大事な試合だった。とはいえ、相手はMFジェイジェイ・オコチャやFWヌワンコ・カヌなど、卓越した技術と驚異的なスピード、身体能力を持つ選手がそろった強豪チームだった。

 そのため、戦い方はブラジル戦を踏襲し、再び超守備的なものとなった。

「初戦に勝ったからね。勝ち点3が取れたので、ナイジェリア戦はリスクを負わず、『ドローでもいい』という計算が監督にはあった。それに、相手もかなり強いチームだったので、守備的にいくのも仕方がないと思った。けど......実際に試合でプレーした手応えは(想定していたものとは)ぜんぜん違ったんです」

 前半を戦った前園は、「あれっ?」と思ったという。

 ナイジェリアは、スカウティング映像で見たスピードを生かした攻撃をほとんど披露せず、非常におとなしかった。逆に日本が、前園、城、中田の3人が連動してチャンスを作っていった。ブラジル戦では得られなかった"点が取れる空気"を、前園たち攻撃陣は強く感じることができていたのである。

「俺たち3人だけじゃなく、後ろからも押し上げて厚い攻撃ができれば、絶対に点が取れる」

 前園はそう確信していた。

 前半を0-0で終えて、ロッカールームに戻ってきた前園は、汗まみれのユニフォームを着替えもせずに、西野朗監督の前に立って、こう切り出した。

「監督、もう少し攻撃に人数を割いて、攻めさせてください。お願いします!」

 その声は鋭く、血気に逸っていた。

 ロッカールームに緊迫した空気が流れた。

 西野監督は苦い表情で、前園の顔をしばらく見つめていた。

(つづく)

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