森保ジャパンは「監督が日本人であることのメリットを最大化している」 (2ページ目)

  • 津金壱郎●構成 text by Tsugane Ichiro photo by Matsuoka Kenzaburo

 森保監督は、選手に対しての言葉の使い方も秀逸だ。日本人選手は指導者から指示されると、それを忠実に実行する。これは見方を変えると「言われたことしかやらなくなる」傾向が強いとも言える。たとえば、ハリルホジッチ元監督は"強い言葉"で自らの指示を選手に徹底させたが、それによって選手たちが指示されたことの実行だけに注力してしまい、柔軟性の欠如を招いた。結果として、選手たち自身の判断で状況に応じて戦い方を変えられずに苦戦したと言える。

 もちろん、言語を同じくしてもその使い方次第で伝わり方は大きく異なる。森保監督は日本代表を指導する際、「細かく指示しない」ことを心がけているという。これは、監督がサイドライン際から事細かに指示を出さなくても選手が主体性を持ってプレーするチームをつくる狙いがある。こういう手法が取れるのも、森保監督が選手たちの能力を最大限に引き出す言葉やコミュニケーション方法を持っているから。そのうえでトレーニングを積んでいるからこそ、就任から間もないなかで、魅力的なサッカーを築けているのだ。

 ハイテンポにパスをつなぎながら、素早く縦パスを入れて、相手を攻略していくために、森保監督はトレーニングの時から2、3タッチ以内にパスを出すという制約を設けている。ただし、こうしたトレーニングは嘘をつかないが副作用もあり、ボールタッチ数制限を設けると、横パスやバックパスが増え、タッチ数に気を取られることで、ドリブルがほとんどなくなることもある。

 にもかかわらず、森保ジャパンにはそうした副作用がほとんど表れていない。その理由として考えられるのは、単にタッチ数制限をするだけではなく、横パスが何本か続いたら必ず縦パスを入れて攻撃のスイッチを入れる「決め事」も設けているのだろう。それによって、前線の選手はタイミングを合わせるための準備がしやすく、中盤はFWへのサポートも素早くできる。

 ドリブルにしても、ミドルサードまではタッチ数をなるべく少なくして、アタッキングサードではフリーにボールを持っていいとしている可能性が高い。だからこそ、中島翔哉(ポルティモネンセ)や堂安律(フローニンゲン)がゴールに向かってあれほどドリブルで仕掛けていけるのだろう。

 とはいえ、そうなるとゴール前でのワンタッチ、ツータッチのプレーが減るなど別のデメリットが生じてくるものだが、現時点の森保ジャパンにはそれもない。森保監督がどんなトレーニングメニューを組んで、どんな指示を出しているのか、個人的に非常に興味深いところだ。

 中島と堂安、そして南野拓実(ザルツブルク)が、森保監督のサッカーの象徴的な存在になっているが、3人に大迫勇也(ブレーメン)を加えた攻撃陣が、欧州の厳しい環境で日々研鑽を積んでいることも森保体制にとって大きな意味を持っている。彼ら4人は、Jリーグで圧倒的な存在感やポテンシャルを見せた選手たちだ。もともとの能力が高いうえに、海外クラブで日常的にフィジカル面でのハンデを乗り越えながら己を磨いている。

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