2018.07.14

泣き上戸でも「泣いてないから!」
猶本光が最終戦を笑顔で飾りドイツへ

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 本人は平常心であっても、周りの選手たちの想いは熱かった。チームは暑さの影響で後半には足が止まりかけた。それでも、ベレーザ攻撃陣の侵入を全身で跳ね返し続け、トップから最終ラインまで、その意識だけは一度も途切れなかった。

 そんな浦和に"2チャンス"目がやってきたのは終了間際。ユースから上がってきた高橋はなが、DF裏のスペースへ抜け出し、ドリブルから一気にフィニッシュへ。うれしい初ゴールで若手の台頭である高橋が猶本の花道を飾った。終了を告げるホイッスルとともに仲間に囲まれる猶本。ようやく、安堵の笑顔がこぼれた。

 ユース年代から代表を経験してきた猶本。何が壁なのか実感がなかった10代のときに、世界一へ駆け上がるなでしこジャパンを目の当たりにした。同じボランチというポジションで輝く澤穂希にくぎ付けになった。

 世代別とはいえ、日の丸を背負った猶本の口から、"世界"と"優勝"という言葉が頻繁に出始めたのはこの頃からだ。明確な目標が彼女の中に生まれていた。そして2012年、ロンドンオリンピックでなでしこジャパンが銀メダルを獲得した直後に日本で開催されたFIFA U-20女子ワールドカップでは3位という成績を手にした。

 世の中では"ヤングなでしこ"として実力以上にもてはやされた。このことは、猶本だけでなく、同じピッチに立っていた選手たちにあまりいい影響は与えていないように見えた。ただひとつ得たものといえば、準決勝でドイツに完敗したことで、世界との差を痛烈に体感したこと。その壁が猶本だけでなく、この世代の選手たちの新たな目標になったことは間違いない。

 そして今、猶本はなでしこジャパンでプレーするチャンスを与えられている選手の1人になった。もちろんチームの中心となるには、まだまだ越えなければならない壁は多い。これまであったチャンスも掴み切れたことの方が少ないかもしれない。それでも努力することだけは厭(いと)わなかった。