南アW杯のメンバー入りは絶望。そのとき突然、川口能活の携帯が鳴った (3ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

「内転筋がちょっと痛いですけど、治れば(プレー)できます」

 川口はそう答えた。その直後、岡田監督はこう言った。

「そうか。実はおまえを(W杯の)メンバーに入れようと思っている」

 その言葉を聞いて、川口は返事に窮した。そしてそのまま、岡田監督の打診に即答することなく、一度電話を切った。

 このとき、川口が躊躇、逡巡したのは、23名の代表メンバーではなく、サポートメンバーとしての打診だと思ったからだ。リーグ戦に1試合も出場していない選手を、23名の選手として考えているとは、とても思えなかったのだ。

 しかし、試合に出られないサポートメンバーであっても、監督に呼ばれた以上は、行くべきなのか――川口は、家族はもちろん、恩師や友人らにも連絡し、「どうしたらいいと思うか?」と相談した。

 すると、夫人をはじめ、相談した全員が「(監督に)必要とされているなら、行くべきだ」と答えた。そうして背中を押された川口は、日本代表として戦う決意を固め、最初に連絡を受けてから3時間後、岡田監督に電話を入れた。

「監督、ぜひ連れていってください。よろしくお願いします」

 川口がそう言うと、岡田監督は「そうか、わかった」と答えた。

「ただ、ひとつ聞いてもいいですか。自分はサポートメンバーですか?」

 そう川口が聞くと、岡田監督は苦笑した。

「バカ、違うよ。23名のうちのひとりだ」

 岡田監督のその言葉を聞いて、川口は胸の中でモヤモヤしていたものが、スッと晴れていくのを感じた。そして、弾んだ声でこう答えた。

「ぜひ、よろしくお願いします」

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