なでしこジャパンが「チーム」になった。
ベテランたちが初めて笑った

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 このチームにおいて横山は、状況を一変させることができる貴重な存在だ。"変える"ためには当然、途中出場となる。横山はそれを"頭から出られない"という方向で受け止めるため、決勝進出を決定づけるゴールを奪っても、優勝に導くゴールを決めても、チームトップの4ゴールを叩き出しても、彼女自身にとっては苦しい大会だった。

「結果を出し続けないと使ってもらえない。やるしかない」と自分を奮い立たせてきた。気持ちが荒(すさ)むときもあったが、どんなときでもベンチのメンバーは横山を気持ちよく送り出し、ピッチでは出場メンバーが彼女を待ちわびていた。大会が進むにつれ、横山がゴール後に仲間のところへ一目散に駆けていくようになったのは、そんな周りの気持ちがしっかりと伝わっているからだ。

 このチームが、今大会で得た最も大きなものは"優勝"ではなく、この一体感かもしれない。ワールドカップ出場権と大会2連覇がかかる大会は、もちろん初めて経験するチームだ。これだけ一緒に長く共に戦うことも初めて。その中で湧いてくる、それぞれの選手の感情を、これまでは感じ取る時間がなかった。

 鮫島は言う。

「出られたり出られなかったり、イラつきだったり、凹んだり......選手それぞれに複雑な感情がある。そういったものを(試合に)出てる選手はピッチで背負ってパワーにできた。だから体を張れている場面が増えたと思います」

 特に守備面では、岩渕ら前線も攻撃面を度外視して、最大限の力でプレスに走り回った。さらに最終ラインでの声が比べ物にならないほど増えた。オーストラリアを相手に、熊谷紗希(リヨン)や市瀬菜々(ベガルタ仙台)が強気に前に奪いにいけるのは、そのチャレンジをカバーする信頼関係が築かれたからこそだ。それはメンバーが入れ替わっても変わらない。

「このチームで勝ちたい!って想いが純粋に自分にはあった。優勝という結果はできすぎな気もするけど、自分にとってはその過程が本当に大きかった」(鮫島)

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