美しき敗戦。ボスニア戦のハリルJは「久しぶりにいいものを見た」

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

「A代表で臨んだ試合で敗れたのはこれが初めてだ」と、試合後の会見で、悔しがったハリルホジッチ。昨年8月に出場した東アジア杯に日本は国内組で臨み、北朝鮮に敗れるなど、最下位に終わったが、彼はこれをA代表の大会だと見なしていない様子である。それに従うならば、確かに初黒星だ。

 初黒星。ドイツなら分かる。スペインでも、アルゼンチンでも構わない。しかし我々は日本。過去5回出場したW杯本大会で、まだ4勝しかしていない弱小国だ。それがこれまで負けなしとは。普段、どれほど緩い環境に身を投じているかを象徴する事例になる。欧州勢との対戦は今回が実に2年ぶり。ブラジルW杯本番でギリシャと対戦して以来だが、この間、日本はいわゆる強豪国との対戦を意図的に避けてきた。弱小国に、勝って勝って勝ちまくってきた。

 客観的に見て、日本は叩かれなければならない国になっている。勝って覚えることもあるが、負けて覚えることもある。勝敗において親善試合のあるべき姿を50対50だとすれば、日本はそこから大きく逸脱した虚構の中で生きてきた。いい加減、正気に立ち返らなければまずい。前戦の7対2で、こちらのその思いはピークに達していた。

 ボスニア・ヘルツェゴビナはそのタイミングで現れ、確実に日本を叩いた。よいサッカーでお灸を据えてくれた。感謝すべき相手になる。

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