世界王者とドロー。高倉新監督が取り戻す「なでしこの神髄」

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 4月になでしこジャパンの新たな指揮官に就任した高倉麻子監督の初陣は、下馬評を覆すと同時に失いかけていた"なでしこの神髄"を蘇らせる一戦となった。

今試合から10番を背負い、しっかりとチームをまとめた阪口夢穂今試合から10番を背負い、しっかりとチームをまとめた阪口夢穂 欧州組の熊谷紗希(オリンピック・リヨン)が合流して、新チームが出そろったのはわずか3日前のことだ。初戦が行なわれたデンバーは標高1600m。マラソン選手が心肺機能を高めるために行なわれる高地トレーニングの場としても知られている。体を順応させるだけでも時間が足りない。なでしこたちに与えられたのは試合までに午前・午後の2部練習で合わせて2日間。ましてや戦う相手はオリンピック連覇を狙う世界ランキング1位のアメリカだ。無謀とも思えた。

 高倉監督が用意したのは、生まれ変わるための試みが散りばめられたスタメンとフォーメーションだった。合わせたのは前日のスタジアムでの1時間のみ。その意図をアメリカ相手に発揮できなかったとしても当然のことではある。だが、腹をくくったなでしこたちは、18000人を超えるUSAファンが詰めかけたスタジアムの熱気を奪うプレーを見せた。

 流れを引き寄せたのは岩渕真奈(バイエルン)の先制弾だ。立ち上がりからアメリカの猛攻を跳ね返し続けていた日本だったが、そろそろ流れを変えなければ持ちこたえられなくなってきていた14分。阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)からのパスを受けた岩渕がドリブルからすぐさま左足を振り抜くと、相手DFの足をかすめてわずかにコースが変わり、ゴール左上の完璧な位置に突き刺さった。この時間帯に岩渕の1本が出ることをこれまでどれだけ待ちわびたことか。さらに、奪った相手は岩渕にとっては忘れられない因縁のGKであるホープ・ソロなのだから意味深い。

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