海堀あゆみが引退の理由を語る(後編)「どんなことにも意味がある、絶対に」 (3ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 国を背負う――中途半端な気持ちで戦える場所ではないからこそ、たとえそれがオリンピック前であろうと、自ら退かなければならない。結果として、斜視の症状が試合中に出ることはなかった。だがこの時期での引退は、海堀なりの精一杯のケジメの付け方だったのだろう。
 
強い思いを持って目のこと、現役時代のことを語ってくれた海堀あゆみさん強い思いを持って目のこと、現役時代のことを語ってくれた海堀あゆみさん 結果として自身最後の舞台となった皇后杯を、海堀は最後まで自分のために戦おうとはしなかった。

「澤さんが引退するっていうことで集中できたところもあったと思うんです。いつも横にいてくれるんですよね。自分の中ですごく支えになっていました。ここまで続けてきたから最後の試合を澤さんと一緒にできたし、ここまで頑張ったから同じピッチに立てたんだって思える。澤さんには点を獲るために上がってもらうから、後ろは絶対に守ろうねって結束が生まれたんです」

 いつものように練習に全力を注ぎ、いつものように試合に臨む。"最後"を意識せず、最後まで走り抜いた。

「目のことは......本当にそのときは絶望的なきっかけだったけど、気付かせてくれたことが多かった。だから今苦しい立場に立ってる人も、周りにはきっと支えてくれる人がたくさんいるし、選択肢もたくさんあるかもしれない。そんな苦しいことも含めて伸びしろなんだと思うんです。どんなことにも意味がある、絶対に。だって生きてるだけでもすごいことでしょ?」

 思い返せば、北京五輪直後にも海堀が同じようなことを言っていた。あのとき彼女は確かにこう言った。

「今は何もできないけど、私がここ(北京五輪)にいる意味がきっとあるんだと思う」

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