【なでしこ】仲間たちが語る、澤穂希という存在の大きさ (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 伏線はあった。前半から掴んでいたCKのチャンスに、得意のニアサイドを固められていることを感じていた澤は、ファーサイドへ走り込む意思を仲間に伝えていた。何度もトライしていくうちに徐々に澤のタイミングが合ってくる。たとえ厳しいマークがついていても、一瞬の隙を突く鋭さは澤の真骨頂だ。

「予測していてもそこに動き出せる選手はなかなかいない。澤はそこに無意識に体が動く」。そのずば抜けた才能をそう称えたのは、澤が14歳の頃から指導を受け、そして最後のシーズンの戦いを託した松田兵夫監督。決勝ゴールに結びつける澤の嗅覚は健在だった。

 その陰には日々の練習でも常に100%の力で臨む強い精神力がある。真摯に向き合う37歳の姿を前に手を抜ける若手などいるはずがない。言葉ではなく、そのプレーですべてを伝えてきた。

 最後のピッチでもその姿は変わらない。自らの運動量も落ちてきた終盤。新潟も最後の反撃に出る。ゴール前では一瞬の緩みも許されない攻防が続いた。チームの勝利を願えば長く、澤の現役終幕に想いを寄せれば短く感じる2分間のロスタイム。澤のラストプレーはチームのピンチをしのぐクリアボールだった。ホイッスルが鳴った瞬間、戦いの表情を解き放った澤の周りには歓喜と感謝の輪が幾重にも重なっていた。

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