松田直樹の命日に思う。いま日本代表CBに欠けているもの (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by Getty Images

 なぜなら、CBは宿命的に相手の攻撃を引き受けざるを得ない立場にある。例えば身長170cm前半のセンターバックが200cm近い巨漢を相手にした場合、明らかな脆弱性を持ってしまう。あるいは鈍足というのも厳しい。俊足ではないとしてとも、食らいついていけるだけの走力は素養の一つだろう。砦の番人として、単純な戦闘力が欠かせない。

 その点で優れた能力に恵まれた日本人CBが、かつていた。

 2011年8月4日に34歳の若さで亡くなった松田直樹は、大柄な体躯ながら走力にも長け、敵アタッカーの能力が高ければ高いほど燃えた。なにより、試合のやりとりの中で成長する逞しさがあった。2002年の日韓W杯、彼は世界のアタッカーを相手に怯むどころか、舌なめずりをしている。高い身体能力と野望に満ちた精神力は、どんな敵に対しても立ち向かう戦闘力を支えていた。

 しかし松田が生前、こんな話をしていたのを覚えている。

「周りからは年齢的衰えを指摘されるんだけど、俺自身は、年をとってからの方がいいディフェンスをできるようになった、という実感があるんだよね。相手の動きを読んで自分のポジションを終始微調整することで、簡単に守れるようになった。昔、トルシエが『ラインを読め』と口うるさく言っていて、当時は意味が分からなかったんだけどね。やっぱり一流のザゲイロは読みがいい。自分から仕掛けるにしろ、受け身になるにしろ、準備の時点で勝っているよ」

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