収穫なき敗退劇。このままではUAEに実力で抜かれる (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 松岡健三郎●写真 photo by Matsuoka Kenzaburou

 しかし、時が経過するほど、こちらにそうした余裕はなくなっていった。パスは確かに回った。チャンスもそれなりにつかんだ。だが、得点がすぐにでも入りそうなムードではなかった。惜しいチャンスは作った。が、絶対的なものではなかった。相手のGKが奇跡的なセーブを連発したというわけではない。

 何よりチームに勢いを感じなかった。自慢のパス回しは、過去3戦同様、自己中心的で独りよがり。支配はするが、リズム、展開力に乏しい鮮やかではないパスサッカー。余計なプレイ、間の悪いプレイが絡み、パスは相手の嫌なところにスイスイと回っていかなかった。

 状況に変化が生まれたのは、後半9分以降。遠藤保仁に代わり柴崎岳が投入されると、パス回しにテンポが出て、ケレン味は消えた。アギーレのこの交代は、遠藤に替えて今野泰幸を投入したイラク戦同様、当たりと言って良かった。

 だが、イラク戦同様、それでもゴールは決まらない。ゴールに向けてシュートの期待を抱かせるシューターがいないことと、それは大きな関係がある。本田圭佑のみ。シュートチャンスを自ら作り出せる選手、常にシュートの可能性を探っている選手、インステップキックを安定して振り抜ける選手が彼しかいないのだ。10番、香川真司にはその力がない。香川について言えば、パス回しでもリズムを壊すことしばしばで、苦戦を招く主因のひとつといってよかった。もはや何が得意な選手か、分からない状態にある。

 支配率が高い割に、良いシュートが飛ばない。キックが正確に当たらない。得点力不足、決定力不足。そう言ってしまうと、焦点はぼやける。というより、本田のような選手が、極端に少ないことにその一番の原因がある。

 日本代表の中で、2番目に鮮やかなキックを見せたのは交代で入った柴崎だった。長めのパスでゲームを操っただけでなく、81分には待望の同点弾も叩き込んだ。日本がPK戦で勝利を収めていれば、ヒーロー扱いされていただろう。だが、見逃せないのは、そのひとつ前の本田のアシストだ。柴崎に戻したラストパスは、鮮やかの一語に尽きた。

 パスよし、シュートよし。ヨルダン戦でも述べたが、ポジショニングもよし。いま書いているのは、敗戦を伝える原稿だが、そこであえて触れたくなるほど、今大会の本田は良かった。

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