鈴木大輔が回顧。「今年一番悔しかったブラジル戦」 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Getty Images Sports

「ブラジルは外から見ていても“個”が強烈でしたね。トップの選手は中盤やサイドに落ちたりしていたから、“最終ラインはもっとこまめに上げて、ギャップを作らないようにしないと”なんて考えていました。もちろん、あの舞台で自分に何ができたか分かりません。でも、もし何もできなかったにしろ、“あのブラジルを相手にちんちんにやられてみたかった”というのはあります。そういう相手と戦ってこそ持って帰れるものがあったように思うから。その悔しさを感じられなかったのが悔しい」

 冷静な洞察だった。柏に合流した後、その気持ちが逸(はや)っていたとしても不思議ではないだろう。

 優れたアスリートは熱気の中で最大限の力を出す。アドレナリンの分泌で、交感神経が刺激された状態になる。運動器官に血液が大量に供給され、痛覚はいくらか麻痺し、肉食動物が捕食するときに似た攻撃性を発する。

 スペイン語にRABIAという言葉がある。怒り、激怒、憤激、という意味だが、サッカー選手はこうした感情を敵にぶつけられないと、ピッチには立ち続けられない。常人が持て余すようなRABIAを制御できる選手だけが、一流の域に入れる。

 ただし、その制御を少しでも誤ると、怒りの刃は自分に返ってくる。例えばレアル・マドリードのぺぺは世界屈指のセンターバックだが、しばしばRABIAの制御を失い、荒っぽいチャージでカードをもらうことも少なくない。

「(鹿島戦の2枚目の警告は)自分のミスからショートカウンターに持っていかれそうになったんです。頭の中では、“イエローもらっていてリーチだぞ”というのは分かっていたんです。でも、足を引っ込められなかった。“それでも前に行かせたくはない”って。それで自分が退場になって10人にして、チームに迷惑をかけているわけで、良いはずはないんです。だけど、そこで止めるのっていうのも“めちゃ俺っぽいな”とも思うんですよ」

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