王朝崩壊。INAC神戸に何が起きていたのか (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 中心選手である澤穂希は「ウォーミングアップは体を温めるだけのものではない」という。たとえば二人一組でロングボールを蹴る数分間は、長くボールを運ぶためだけのものではない。ボールの当て所、蹴るボールの種類、正確さ、受けるときのファーストタッチ、その際の自分自身の筋肉の感覚など......気にすべきことを挙げればキリがない。すべてのメニューに付加価値をつけるのは自分自身だ。体幹トレーニング、走り込みも同じ。出場機会が限られる選手も多いが、だからこそ、ベースの部分はしっかりと高めていなければならなかったはずだ。土台さえしっかりとしていれば、その上にどんな戦術を乗せてもグラつくことはない。

 今シーズンは特に他チームがしっかりと土台を作り上げてきていただけに、ベースの差が明確に出たように見えた。学生時代に通用していた技術レベルをいまだ日本女子サッカーのトップリーグ仕様にギアチェンジしきれていない印象がある。ともすれば退屈でもあるベースの向上を甘くみたツケが回ってきている気がしてならないのだ。

 そんな若手の中でとりわけ多くのチャンスを与えられたのが増矢理花。JFAアカデミー福島から入団したてのフレッシュな選手だ。

「チャレンジリーグ()ではなんとなく守備をしてもボールが取れてたけど、なでしこリーグはちょっとの揺さぶりじゃブレてくれないし、守備も背中で相手を見なきゃいけなかったり、とにかく想定外のことだらけでした」(増矢)

※日本女子サッカーリーグの2部リーグの愛称

 当然、何度も失敗を繰り返す。一瞬で囲まれることも多く、ボールを奪われるのを恐れるあまり、安全策を優先してしまう事態にまで陥った。一方でそれは、トップリーグの洗礼を浴び、正しく壁にぶつかっていると言える。試合を重ねるたびに自分からの要求も出てきた。その答えを見つけるべく、自分に必要なものとして、黙々と走り込みをする。これまた正しい壁の乗り越え方だ。しかし、この流れに持っていける選手は一握り。わずかな出場機会にかける選手たちはさらに気持ちを強く自分に厳しくしなければベースは高められない。こじゃれたパスを1本通すよりも、まずは的確なパスを3本通すことが先決だ。

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