蹴球解説!アギーレのサッカーが「攻撃的」である理由 (5ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

 もう一つ、ザックジャパンとの違いとして明白になったのは、サイドの活用方法だ。ザックジャパンは左サイドの高い位置で構えている選手がいなかった。4-2-3-1の3の左を任されたはずの香川真司が、その場所にいる機会はほとんどなかった。7割方、真ん中の位置にいたため、そこは大きな穴になっていた。プレスがまったくかからない状態にあった。「それでは危ないですよ」と再三指摘してきたわけだが、ブラジルW杯では、こちらが危惧したとおり、そこを相手に狙われた。原専務理事も「日本の左サイドは相手に研究されていたようだ」と語ったが、これは、攻撃的サッカーがキチンとできていなかった証拠だ。

 ボール支配率を高めようとすれば、両サイドを有効に活用することが鉄則になる。古くから常識であり、データでもとうの昔に証明されている。サイドの選手は、片側がタッチラインであるというその場所柄、四方からプレッシャーを浴びる真ん中の選手に比べ、ボールを奪われにくい性質があるのだ。

 クライフは言った。「高い位置で構える両ウイングにボールが渡れば、中盤のエリアが広く深く使える」と。中盤のエリアとは、ボールを奪われにくい両サイド各2名、計4選手が形成する4角形を指すが、彼らを経由するパスワークは、ボールを奪われにくい。

 ザックジャパンはその4角形が、とてつもなく狭かった。よくいえば、超高度なパスワークを繰り広げたわけだ。スペイン代表もこの傾向は強かったが、それより技術の低い日本がそれをやれば、相手のプレスの餌食になることは見えている。W杯で完璧にサイドを活用し、広い4角形が保てていたのはドイツ代表になるが、これもまた日本に思い切り不足している感覚だ。

 中盤のエリアが広い左右対称の4−3−3。ベネズエラ戦の、とりわけ後半に演じたサッカーは、攻撃的サッカーの要素を十分に満たしていた。しかし、欧州では「攻撃的サッカー」はもはや死語だ。これこそがスタンダードなサッカーになって久しいからだ。アギーレが「攻撃的サッカー」を口にしない理由もそこにある。いまさら、だからだ。

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