ザックJの棘(とげ)。大久保嘉人に「ジョーカー以上」の期待 (3ページ目)

  • 佐藤 俊●文 text by Sato Shun
  • 益田佑一●撮影 photo by Masuda Yuichi

 残念だったのは、大久保のよさを理解し、彼の欲求を満たすボールを配球できる遠藤の姿が後半のピッチにはなかったことだ。

「真司とか(本田)圭佑とか、前線の選手との絡みは悪くなかったけど、(周囲に)唯一要求したのは、ボランチのところですね。もっと縦パスを出してくれるように言った。高い位置でボールを奪っても、ボランチが後ろに(ボールを)下げてしまうんですよ。一度、ボールを後ろに戻してしまうと、相手に守備のブロックを作られてしまうので、崩すのが厳しくなる。だからボランチには、ボールを奪ったときは相手のディフェンス組織は崩れているわけだから、たとえ(自分の近くに)敵DFがいたとしても、とりあえず、『前にボールを預けてくれ』と。オレなり、真司なり、圭佑なりに出してくれれば、日本らしいスピーディーなショートカウンターができると思うんで、まずは『縦パスを出してほしい』ということを試合中から(ボランチに)求めていた」

 試合中でも自ら周囲に注文をつけるということは、合宿で話していた「自分のやりやすいようにやっていく」ということを実践している証拠。とはいえ、本番までの時間は限られている。W杯開幕まで、残る試合はアメリカ合宿中の2試合のみ(現地時間6月2日vsコスタリカ、6月6日vsザンビア)。最終的にブラジルW杯で、自分がチームの力となり、活躍できる手応えは感じているのだろうか。

「キプロス戦は、短い時間だったけど、『やれるな』っていう気持ちが強くなった。1トップに求められていることもわかったし、自分からも要求を出した。これからもっとやれると思うし、その自信はある。そうじゃなきゃ、オレが(メンバーに)入った意味がないでしょ」

 メンバー発表後、大久保に対して膨らんだ期待は、今のところ間違いではなかったようだ。キプロス戦でも少ない出場時間ながら、何かしら変化をもたらしてくれそうな予感を漂わせていた。

 前回の南アフリカW杯では、普段とは違ったスタイル、献身的な守備と豊富な運動量で勝負して、日本の16強入りに貢献した。大久保は、信頼して任せれば、結果を出す選手。ザッケローニ監督が土壇場で悩んだ末に入れた"カード"は、単なる"ジョーカー"ではなく、日本を躍進させる最高の"武器"になる可能性が十分にある。

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