W杯メンバー発表直前、豊田陽平が語っていた「平常心」 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Jun Tsukida/AFLOSPORTS

 そう語る彼は、高度経済成長期の“日本人企業戦士”のようにも映る。自らの仕事に関しては、多分にストイックなところがある。

「嫁には、『試合を見に来てもいいけど、結果や内容についてとやかく言う嫁にはならんでくれ』と言ってあります。選手の中には、嫁に意見される場合もあるらしいですが、『ウチは絶対に言うな』と釘をさしてあります」

 男の仕事に口を出すな、とはっきり言える日本人男性が彼と同世代でどれだけいるだろうか。練習の日には開始時間の1時間半前にクラブハウスに到着する。「30分前までに来て各自アップ」というのは義務づけられているが、彼の場合、それより1時間も前に来て、入念に体を目覚めさせる。

「格好良く言えば、“プロフェッショナルとしてこうあるべきだ”というのが自分のルールとしてあるんです。やるときとやらないときのけじめというか。オンとオフがあった方が自分はうまくいきますから」

 しかし意識が高まったのは、プロに入ってしばらく後のことだ。星稜高校から名古屋グランパスに入団したときは、怠惰な生活を送っていたという。練習に遅刻したこともあった。

「今なら、あり得ない。僕らはサッカー選手が職業で、ボールを蹴って飯を食っているわけですからね」

 彼は苦笑を浮かべて続ける。プロについて考えるようになったのは、先輩選手を見ながらだった。鳥栖で30分前ぎりぎりにクラブハウスに到着する若手選手を見ていると、「おまえらそれでいいの?」と説教したくなる。

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