W杯メンバー発表直前、豊田陽平が語っていた「平常心」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Jun Tsukida/AFLOSPORTS

「去年(2013年)の12月の天皇杯準決勝でも左まぶたの上を切っていて、ようやく傷が塞がっていたんです。僕は右まぶたにも切り傷が残っているので、両方に傷があるとサッカー選手というよりボクサーみたいだから、左はレーザーを使って傷跡を消そうと思っていたんですが......。これでまた、完全に塞がるまで半年は待たないといけません。痛みはないです。慣れてますから」

 高校時代にはヘディングで相手選手と激突し、額にひびが入った。これも一大事だが、相手選手の方は頭部裂傷で流血が止まらず、大変な騒ぎになったという。

 必然的に、相手ディフェンダーも死に物狂いで挑んでくる。柏戦でも、豊田は相手ディフェンダーと一触即発の関係になった。左からのクロスボールに対し、死角に入ろうと動いた豊田は背後から体当たりされ、首がむち打ち状態になった。露骨に潰しにかかってきた相手に怒り、猛然と抗議した。

「J2鳥栖から再出発して、ようやく世界が近づきました」と豊田はしみじみと言う。

「こつこつとやってきたので、長く感じてもいいはずなんだけど、あっという間でした。今は凄まじい速度を感じています。その中で、忘れられていた頃の自分を維持したい、というのはあるんですが、そうさせない状況を作られるというのはあります。クラブがメディアの露出をコントロールしてくれているから助かっていますけど、それでも取材申請は増えました」

 彼は極力マスコミを遮断することで、自分の戦いに没頭する道を選んだ。さもなければ、心も体も保てないと判断したのだった。不器用なのだ。

 プロサッカー選手という職業に対し、豊田は独自の倫理観を持っている。

「家ではサッカーの話はしません。"仕事は家に持ち帰らない"というのが、自分の信条なんで」

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