豊田陽平は代表候補合宿で好感触を得ていた

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFLOSPORTS

 豊田は網焼きの香ばしさを噛みしめながら言う。シュート自体は無意識で打っていた。ヘディングを競った後はパワーを使っているだけに、着地したときには余力がないのが常だが、着地後も強く踏み込んでボールを蹴れていた。

 試合後、鳥栖の尹晶煥(ユン・ジョンファン)監督には労(ねぎら)いと賞賛を受けたという。

「ゴールに対して無心でプレイできているというのは、正しく進歩している証拠。これほど喜ばしいことはない。技術が身についている証拠で、これからさらに努力を続ければ、また新たなスタイルも身につけられる」

 信頼する指揮官の激賞に、彼は笑顔で返した。

「実は代表の合宿(4月7~9日)に入った辺りですかね。"必ずゴールを取れる"という自信が芽生えたんです」

 豊田は低い声で言い、隣の部屋では宴たけなわのサラリーマン客の嬌声が響いていた。

「(モンテディオ)山形時代、北京五輪のメンバーに入る前もそうだったんです。不思議と力が抜け、その瞬間が止まって見えるというのですかね。"いつかは分からないが、いつかは必ずゴールが入る"と思えるから、焦らない。"このポジションに入れば、必ずボールがくる"という感じ。アスリートは"ゾーンに入る"という感覚があるらしいですが、自分の場合、完璧にゾーンに入ったとは言えないまでも、確実に入り口にはいるなと」

 その告白通り、豊田はゴールを奪い続けていた。7節終了時点で6得点と、得点王争いのトップに立った。

「代表合宿の練習試合、点は取れなかったんですけど、不思議と落ち着いていられました。必ず取れる感覚があったんです。求められることは、今回はだいぶできたと思います」


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