サプライズ選出の大久保嘉人、ザックはこう使う

  • 飯尾篤史●文 Iio Atsushi
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 なぜ、ザッケローニ監督は、大久保を選んだのか。

 もし、かねてから最後には選ぶつもりで、あえて一度も呼んで来なかったのだとしたら、チームや個人のマネジメント、世論をうまくコントロールするという点で、かなりの手腕だと言える。一度も試していなかったからこそ、大久保が加わることによる化学反応への期待感も、本人のモチベーションも今、このうえなく高まっている。また、チーム内にも良い刺激になっているはずだ。

 その一方で、チーム事情のため、最後の最後になって大久保の力がどうしても必要になったという見方もできる。これまで信頼して起用してきた攻撃陣に、本調子と言えない選手が多くなっているからだ。

 マンチェスター・ユナイテッドで前監督に冷遇された香川真司は、ついに無得点のままシーズンを終えた。昨シーズン21ゴールを奪った柿谷曜一朗もチーム戦術の変更から、昨年のようにゴールを量産できていない。

 ニュルンベルクで2部降格を味わった清武弘嗣も、低迷するチームに引っ張られるように好不調の波があり、本田圭佑までもがミランではトップ下で起用されず、出場機会を得られないゲームもあった。

 クラブと代表は別物とはいえ、こうした状況の中、得点力があり、前回大会の経験者で、ずっと好調を維持している大久保の存在が、指揮官の心の中で徐々に大きくなっていったのだとしても不思議はない。

 ザッケローニ監督は、大久保の魅力として「経験」「クオリティ」「意外性」を挙げた。

「意外性」という言葉を「何か驚くことをやってくれそう」という意味合いとして受け取ると、今の大久保の魅力がより伝わりやすくなる。

 世界の屈強なDFを手玉に取って、列強相手にゴールを奪ってくれそう――。このスケール感、ワクワク感こそが、大久保待望論が巻き起こった要因だろう。

 今の大久保はとにかくボールを奪われない。クイックネスがあるから簡単にマークを外し、隙があれば一瞬でターンして前を向く。相手が後ろからガツガツくればシンプルにはたいて、DFの視野から逃れてリターンを受ける。大久保は言う。

「昔は(敵DFを)背負うのがあまり好きじゃなかったんですよ。後ろからガツガツ来られるのは嫌だった。でも、今はどんどん来いって思っている。来たらシンプルに預けるし、来なければ前を向く。その駆け引きが楽しくてしょうがない。どっちでも来いという感じ」

 ゴールパターンが多彩なのも、大きな魅力だ。右でも左でも頭からでも奪え、ミドルシュートの決定率が高いのもいい。昨季には「コツを思い出してきた。打てば入るという感覚がある」と語ったほどだ。

 今の大久保を「無駄がなくなって、ストライカーとして洗練された」と言うのは、盟友の中村憲剛だ。大久保本人も「4年前と今とではプレイスタイルが全然違う。4年前より良い選手になっていると思う」と言う。

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