W杯メンバー発表直前。ザッケローニは工藤壮人の何を買っているのか

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 長田洋平/アフロスポーツ●写真 photo by Nagata Youhei/AFLO SPORTS

 工藤はストライカーとして、勘の良さが際立つ。しかしそれは偶然ではない。その勘は、注意深い観察眼で計算された選択の積み重ねで成立している。例えばGKとの一対一も、彼は相手のGKの体勢や重心がどうかを瞬時に見分ける。隙がなければ、体勢を崩すのに視線でフェイントを入れる。あるいは、GKにとってニアのケアが常道なのを逆手にとり、ニアに蹴る体勢を作りながら体を捻りファーへ打ち込む。憎たらしいほどのしたたかさである。

 そのセンスの良さを、日本代表監督のアルベルト・ザッケローニも高く買った。初招集のとき、イタリア人監督は「おまえのことは二つのポジション(右の攻撃的MFとトップ)で考えている」と工藤に説明したという。

「左で作って、右で仕留める」という理論のザッケローニ戦術において、どちらのポジションでもゴールを求められた。事実、現代表では右MFの岡崎慎司のゴール数が際立って多い。

 工藤はその岡崎に次ぐアタッカーと目されていた。右MF、FWと併用できる点、守備の献身とポジショニングの良さは共通し、「W杯代表メンバー23人として有力」と噂されていた。

 しかしトップ、トップ下、サイドを含めたアタッカー枠は約8人と、生き残りは甘くなかった。実績、実力で岡崎、本田圭佑、香川真司は当確。工藤は残り五つの席を、柿谷曜一朗、清武弘嗣、大迫勇也、齋藤学、豊田陽平と争うことになった。他にも、海外組は乾貴士、大津祐樹、ハーフナー・マイク、Jリーグ組は南野拓実、小林悠、大久保嘉人など候補選手は週替わりで誕生した。

「心の中に、重苦しい感情が少しずつ澱(おり)のようにたまり始めている」

 代表監督がそう心境を明かすほど、選考は熾烈を極めていた。


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