皇后杯。INAC神戸が4冠達成も、「1強時代」は終焉か!? (2ページ目)

  • 早草紀子●文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 93分、INACがコーナーキックからチ・ソヨンが決めて、この試合初めてリードを奪った。これで勝負がついたかに思われたが、新潟は誰ひとり諦めていなかった。111分、延長前半からピッチに入ったFW平井咲奈がINACのDF陣に囲まれながらもギリギリの体勢からマイナスへラストパス。受けたマッカーティーがゴール右上隅に決めた。120分を戦い終えて2-2。すべてはPK戦に託された。ここでも互いのGKがセーブを見せ、一進一退の攻防となるが、最後はキャプテン川澄奈穂美が決めて、INACがこの激闘を制した。

 「もっと楽な展開もあったかもしれない」INACのMF中島依美(えみ)はこう語ったが、もちろん否定的な意味ではない。サイドにスペースはあった。そこを突けば新潟の守備を崩せた可能性は高い。それでも、中央から攻める姿勢は崩したくなかった。ただ優勝したいのではない。"自分たちのサッカー"で優勝したかった。

 交友を深めながら、高みを目指した仲間。なでしこリーグ得点王に輝いたゴーベル・ヤネズ、懸命に日本に溶け込もうと努力し続けたベッキー。二人のアメリカへの帰国はすでに発表されている。加えて現在、INACの顔ともいえる川澄奈穂美、近賀ゆかり、チームの主軸へと成長したチ・ソヨンらの移籍話も進んでおり、INAC上昇気流を支えたビッグネームが次々と卒業していく。このメンバーで最後の試合となる皇后杯決勝では、たとえ苦しんでも、このメンバーでしか成し得ないサッカーで戦いたかった。2得点はすべてセットプレーからのものだったが、そのチャンスを作り出したのは紛れもない女王・INACのサッカーだった。

 そして、この熱き戦いを作り上げたもう一方の立役者は間違いなく新潟だ。INACが中央攻撃にこだわったという部分を差し引いても、この日の新潟の戦いは目を見張るものがあった。

 ロンドンオリンピックまでなでしこジャパンのテクニカルスタッフを務めていた能仲太司氏を監督に迎え、新たに走り出した新潟だったが、チーム作りは難航を極めた。負けが続き、悔しさのあまり、試合後のダウンで泣き出す選手もいた。

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