名波浩の代表総括。オランダ戦で南アW杯からの進化が見えた

  • 飯尾篤史●構成 text by Iio Atsushi
  • 益田佑一●撮影 photo by Masuda Yuichi

 2点リードして、前半を終わらせにかかったオランダ。それに対して、日本はワンサイドからプレッシャーをかけて、GKまでボールを下げさせ、蹴るしかない状況を作り上げていた。

 前半終了間際の1点を返した場面では、DF吉田麻也が相手陣内でボールを奪って、MF長谷部誠にパス。ボール受けた長谷部がうまく前を向いて、1トップの大迫勇也へスルーパスを出した。ふたりの距離も抜群だったし、膨らみながらボールを呼び込んだ大迫の動きもうまかった。ゴールに至るまでのプロセスは完璧だった。ボールの奪い方に加えて、前半のうちに1点を返せたことは、チームの自信を深める要因になったと思う。

 コンフェデレーションズカップ(6月)のブラジル戦(0-3)や、8月のウルグアイ戦(2-4)では、すぐさま先制点を奪われ、日本はひるんだ素振りを見せてしまい、そのまま畳みかけられた。10月のセルビア戦(0-2)やベラルーシ戦(0-1)では、自分たちが目を覚ます前に試合が終わってしまった。そういう苦い経験を、今回はしっかり生かしたと言える。

 遠藤保仁と香川真司が入った後半は、試合展開がガラッと変わった。パスワークが格段に高まり、トップ下の本田圭佑が生き返った。それはなぜかというと、香川がアウトサイドから頻繁に中央に顔を出し、全体のポジションバランスが微妙に変わったからだ。それに、オランダの守備陣が対応できなかった。加えて、オランダはボランチのデ・ヨングがベンチに下がり、代わって左サイドバックのブリントがボランチに入ったため、香川と本田をまるで捕まえられなかった。

 そこで、オランダのベンチは、ロッベンに下がって対応するように指示していたけれども、ロッベンは下がらなかった。それで、センターバックにしわ寄せがきて、ラインを下げざるを得なくなった。すると、日本にとっての攻撃スペースがさらに広がり、一層前向きでボールを運べるようになった。こうしてオランダにとっては悪循環に、日本にとっては好循環になったことが、後半、日本がペースを握れた要因だろう。

 オランダとの対戦で、日本が以前と比べて明らかに変わっていたのは、パスワーク。個人的な感覚で言えば、南アフリカW杯で対戦したときは、おそらく200本もつなげていないのではないか。それが今回は、400本ぐらいに達していると思う(※)。やはり、ヨーロッパでプレイしている選手が増えた分、(欧州の選手に対する)コンプレックスもなく、プレッシャーもそれほど感じないで、堂々とパスをつなげたのではないだろうか。

※オランダ戦における日本のパス成功数(全エリア)。2010年6月=224本、2013年11月=409本。ちなみにアタッキングサード内のパス成功数は、2010年6月=27本、2013年11月=78本(データ提供:データスタジアム

 また、本田が同点ゴールを決めたが、あの得点は複数のパスが絡んでのコンビネーションから生まれた。そういう形から点を奪えたことも自信となり、次のベルギー戦につながった。

 続くベルギー戦、日本は3-2で勝利したけれども、「勝っちゃった」という感じではなかった。勝つべくして、勝ったという印象だ。

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