阪口夢穂が語る「ボランチから見たなでしこジャパンの今と昔」 (3ページ目)

  • 早草紀子●文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 いろんなタイプとペアをこなしてきた阪口だからこそ聞いてみたい。阪口にとって“理想のボランチ像”とはどんなスタイルなのだろうか。

「私も本職じゃないから、正直わからないんです。点が入ればそれで“ヨシ”となる感じもあるし。でも、そんなときは絶対にボランチのどっちかが攻撃に絡んでる。だからどちらかが必ず攻撃に上がれる状況にできていることと、セカンドボールを拾えてるときっていうのは良いバランスなんだと思う」

 阪口の中の優先順位は自分のプレイではない。良いバランスにするために、自分がどう動くのがベストかを考える。彼女の“理想”は自分がやりたいプレイをすることではなく、チョイスした自分のプレイが“チームの理想形”に貢献できているかどうか、というところなのだ。

「結局なでしこのサッカーって、周りの人のために自分がどれだけ動けるかっていうもの。そういう状況になったとき、どっちかっていうと『私が二度追いすればいい』って思う方。その代わりゴール決めてなって(笑)。どれだけ苦しい思いをしても、ゴールを決めてくれると、『あー走ってよかった!!』ってチャラになるんです(笑)」

 世界への道筋を考慮すれば、今の段階でボランチの軸は阪口以外に考えられない。

「一度コーチに攻守の役割を決めた方がいいかって聞いたことがあるんです。でも、答えは、役割を決めない方が相手は的を絞りにくいってことだった」ならば、攻守を切り替えながら呼吸を合わせていくしかない。ペアが決まればおのずと色が沸きだしてくるはずだ。ベテランだけでなく、若手にもその一角に入り込むチャンスは十分にある。

「私がボランチにデビューしたのは20歳のときの東アジア選手権。ナガちゃん(大儀見)にしたって同じ年で、イワシ(岩清水)も21歳で今のポジションを背負ってた。今の子たちにだってできるはず。則さんはチャンスをくれるから、今の子たちはラッキーだと思う。私、若い頃全然試合に出してもらえなかったから(苦笑)」

 それでも環境に恵まれていた、と阪口は若き日を振り返って笑った。試合に出ることが叶わない日々を支えてくれたのは先輩選手たちだった、と。

「私も大人になったってことですかね?(笑) 若い子たちを見てると、先輩たちもこんな感じで私を見てたのかなって思うときがあるんです」

 北京オリンピックで可能性を見出し、それを追いかけて走ったワールドカップドイツ大会では、澤の大活躍の影にボランチでペアを組む阪口の功労があったことは言うまでもない。そんな自分を自ら“陰”と称す阪口。

「でも、陰があるから日向がある。縁の下の力持ちっていうの? それを目指します(笑)」

 柔らなボールタッチ、適所を見極めるポジショニング、先を見越した鋭い寄せ――逞(たくま)しいまでのプレイで魅せる阪口は、これから成熟期を迎える25歳。阪口がどんなプラスアルファを見出すのか、なでしこの成長を見守る楽しみは尽きない。

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