ガーナ戦の勝因は「プレスバック」。3得点より大事な危機察知の意識 (3ページ目)

  • 飯尾篤史●文 text by Iio Atsushi 佐野美樹●写真 photo by Sano Miki

 また、左サイドを崩された44分の場面でも、マークすべき右サイドハーフのアドマーが中央へ走り込んでいるのに、長友は足を止めてしまった。長友よりも敵陣にいた長谷部が懸命に戻り、この選手へのパスをカットして事なきを得ている。

 これは、リスクマネジメントの問題ではなく、選手個人の危機察知力――マークの責任感の問題だろう。

 思い出すのは今年5月、バイエルンとドルトムントの間で争われたチャンピオンズリーグの決勝だ。バイエルンの先制ゴールの場面では、GKノイアーのリフティングからのクリアや、リベリの股抜きのスルーパスが印象的だが、攻撃の起点となったのは、バイエルンの徹底された守備意識だった。

 中央突破を図ったドルトムントのギュンドアンに対し、前線にいたハビ・マルティネスが猛烈な勢いでプレスバックしてボールを奪い返したのだ。このとき、ゴール前にはバイエルンの選手が5人もいて、ドルトムントの選手はふたりしかいなかったにもかかわらず……。この守備意識の高さと責任感に、シーズン18失点しか喫しなかった堅守の理由が見えたものだった。

 おそらく遠藤も、長友も、自分たちの「サボり」に気づいたに違いない。

 失点の直後、速攻を許し、右サイドからクロスを入れられた27分の場面で、懸命に戻って身体を投げ出してクリアしたのは、遠藤だった。67分、左サイドの深い位置まで戻ってオパレの突破を阻んだのも、遠藤だった。また後半、攻撃参加の回数を増やした長友も、同じくらいの勢いで自陣に戻る姿が目に付いた。

 ヨーロッパがシーズンインして欧州組のコンディションが整ったことに加え、8日間にわたる合宿で約束事を改めて確認したことで取り戻した守備での自信――。3点を奪った攻撃面もさることながら、ザックジャパンにとって生命線だった、前線からの効果的かつ効率的なプレッシングが戻ってきたという点に、この試合の価値はある。

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