東アジア杯で代表初選出。ドリブラー齋藤学が語る「自らの武器」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by GettyImages

 しかし敵にとって怖いのは、ドリブルそのものではない。齋藤がゴールに直結したプレイを好み、そのためならば「ドリブルでなくてもいい。他にもっと楽にゴールできるなら」と、柔軟な選択肢を持っていることにある。

 彼はいわゆるドリブラーの枠には収まらない。

 あえてひと言で表現すれば、CALIDAD(スペイン語でプレイセンス)の塊(かたまり)だろう。瞬時に最善のプレイを選択する。大宮戦のドリブルシュートも、まずボールを運ぶドリブルをした後、瞬時にコースを見つけると、今度は仕掛けるドリブルを選んだ。流れの中で、的確に選択を変えられる。

「自分の中で武器というのは、どんどん変わっていっているんですよ」

 齋藤は自らのプレイスタイルについてそう語っている。

「小学校の頃の武器は『裏に出る動き』だと思っていましたし、中学のときは『ドリブル』と言っていました。(2012シーズンは)『攻守の切り替えの速さ』だったんです。武器は課題みたいなもので、一つではないと思っています」

 フットボールは「ドリブルがうまい」「トラップがうまい」「無尽蔵のスタミナ」というだけでは、一流の世界を生き抜けない。「どこで」「いつ」「何を」選択し、判断できるかが、ものを言う。2011年シーズンに在籍した愛媛FC時代、「癇癪(かんしゃく)持ち」と言われたバルバリッチ監督が手放しで称賛し、「マナブにだけは自由を与える」と公言したほどのプレイセンス。齋藤はその類いまれな異能を、徐々に進化させている。

 特筆すべきは、彼がCALIDADを成長させるために必要な謙虚さ、誠実さ、素直さを性質的に持ち合わせていたことだろう。

 例えば1年間だけ過ごした愛媛に対する敬意と愛情を、彼は絶対に忘れない。時間を見つけては、関東で開催されるゲームに足を運び、旧交を温める。また、世界最高選手であるメッシにちなみ、一部メディアに「ハマメッシ」と名付けられるようになっても、頑なに「愛媛のメッシです」と訂正する。一人の男として、とても義理堅い性格を持っている。

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