初招集!異能のストライカー工藤壮人が「日本代表」を語る (5ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya
  • photo by AFLOSPORTS

 欧州チャンピオンズリーグ歴代得点王である伝説的FWラウル・ゴンサレスは、「これといった武器がないのに、得点を取る」と言われていた。レアル・マドリードの7番を背負い続けた男は、ゴール前の危険地帯にどこからともなく現れ、水が流れるように然るべき判断と技術でゴールネットを揺らした。強さも、速さも、目の覚めるような技術もない。しかし、対戦相手は畏怖したという。

「ラウルは絶え間ない駆け引きの中で自分を生かし、相手を殺す術を知っていた」と。

 工藤はラウルの領域に近づけるだろうか。

「今はレイソルで、サッカー選手としての日々の時間を少しでも上手く使いたいと思っています。欧州チャンピオンズリーグを見たりするのもそうですが、選手として現状に甘んじず、刺激を受けながらやっていく必要はあると思います。だから、チームメイトにははっきり要求する方。個人的には、“ゴールを獲る欲は忘れちゃいけない”と考えていますね。欲がなくなったら、FWはおしまいだと思いますから」

 そう言って工藤は強い眼光を放つ。それは狩りをする者の風体だ。“チーム戦術を崩してでもゴールを奪い取る”というエゴで協調を乱すやり方は彼の流儀ではないはずだが、“FWは型にはまったら獲物を獲り続けることはできない”ということを、本能的に弁(わきま)えている。ゴールを狩るたび、工藤はその技量を上げていくだろう。

 本来的に持っているサッカーへの情熱と、彼の性質としての高いコミュニケーション力は、すでに骨や血肉となっている。欧州のスカウトも、そこに惹かれたに違いない。繰り返してきた思念は自信となり、今や確信になりつつある。ブラジルW杯は、たとえ遠くとも確実に近づいている。

 2013年5月6日、Jリーグ第10節。日立柏サッカー場に立った工藤は、Jリーグ最強のCB、中澤佑二と栗原勇蔵を相手に、巧妙なポジショニングで立ち回っている。後半15分だった。クレオのポストワークでボールを受けたとき、CB二人のポジションが左にずれたのを彼は見逃さない。右方向へ速い判断と高い技術でボールを運び、ゴール左隅にミドルシュートを打ち込んだ。彼の23才の誕生日だった。

 この夜の勝利で、工藤が得点した試合は25勝3分けと、リーグ戦無敗伝説を28試合まで伸ばした。ただ彼の貢献は得点だけではない。逃げ切りモードに入った試合終盤、ジョルジ・ワグネルが栗原に潰され、左サイドを破られそうになったときだ。いち早く帰陣し、守備に回ったのは他ならぬFWの工藤だった。

「勝利する中で、自分は殻を破ってきた」

 ストライカーとして世界で偉業を成した、ラウル・ゴンサレスの言葉である。

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