初招集!異能のストライカー工藤壮人が「日本代表」を語る (4ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya
  • photo by AFLOSPORTS

 今は試合中のせめぎ合いの一つ一つが、彼を大きくする。

 例えばJ1リーグ第5節、名古屋グランパス戦で決めたドリブルシュートは、工藤の進化が顕著に出た。CBの闘莉王、増川、そしてボランチの田口という3人が、チャレンジできそうでできない位置にボールをコントロールし、押っ取り刀で来た闘莉王の逆を取ると、あとはGKと1対1になって隅に流し込んだ。派手なドリブルではない。相手との距離感を測り、シュートポジションを計算してコントロールしたのだ。

「Jリーグで試合をしていて、ミスは少なくなってきています」と工藤は言う。

「今はそこそこ結果が出てきていますから自信にはなっています。ポストワークだったりも、“やれる”という感覚はつかめてきていますね。自分の世代の選手は、すでに試合に出ていて当然。もちろんベンチならベンチでやるべきことはありますけど。今は一試合一試合、重圧を感じながら課題に向き合い、やっていくだけです。自分になにができるのか、を常に突き詰めながら」

 では工藤にとって、2014年のブラジルW杯に向けた日本代表はどのような存在なのだろうか。

「正直、今は現実的ではありません。遠い存在。絡んでいる、というのもおこがましいくらい」

 その眼差しに切迫したようなものは浮かばなかった。

「ザックジャパンが実際にどんな練習をしているのか、それが分からないので何も言えないんです。『ザッケローニ監督は要求や決まり事が多い』という話は伝え聞きますが、実際に言われたわけではないので。もちろん、サッカー選手としては代表が憧れのチームであることは間違いありません。FWは結局ゴールで語られる部分が否応なくあるので、やはり代表の目を向かせるには1点でも2点でも多く取ることなんでしょうけど」

 今から1年後、W杯目前に自分はどうあるべきなのだろうか?

「うーん、今はJリーグで活躍し続けることですかね。“たとえW杯に行けないにしても近づけてはいる”という実感があるようにしていたいとは思っています。メディアやサポーターが自分を後押ししてくれるような。代表でどのポジション? それは本当に分かりません。たしかにセンターフォワードよりは右のワイドのアタッカーとかの方が想像できるし、岡崎さんとは比較されることもありますけど」

 工藤は言葉を選んで話をする。正真正銘のリアリストで、23歳とは思えないほど大人びている。ただ一方で、笑顔は眩しい。白い歯を出し、眼を細め、目尻を下げる。闊達さがそのまま顔に出て、漫画に登場する天真爛漫なキャラクターのようだ。大人としての流儀は持っているが、子供の純真=柔軟さも失っていない。あるいは鷹揚な中に鋭さを隠しているとも言える。

 その本性は空をつかむようであるが、そのつかめない感じこそが彼のストライカーとしての異能なのかもしれない。何にでも化けられる――。

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