初招集!異能のストライカー工藤壮人が「日本代表」を語る

  • 小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya
  • photo by AFLOSPORTS

「工藤はとにかく向上心が強い」

 そう証言しているのは、柏時代にFWとして切磋琢磨した北嶋秀朗だ。ミスターレイソルとして多くのファンやチームメイトに愛された北嶋は、「自分の付けていた9番を付けるのは工藤しかいない」と語るほど同じFWの工藤を評価していた。

「何でも学び取ろうという意識が強い選手なんです。例えば、僕のニアに入る動きはよく観察していて、今では自分のものにしちゃってますね。上手くなるために考え方が柔軟だし、そういう姿勢は一人のプロ選手として尊敬しています。あいつの方が、年下なんですけどね(笑)。たぶん工藤は、これという武器がないのを分かっているからこそ、常に成長できているんですよ。プロに入るのもぎりぎりの競争だったからこそ、胸に秘めているものがあるんでしょうね」

 2012年のクラブW杯準々決勝で北中米王者モンテレイと対戦したとき、工藤は冷静に試合をこう分析している。

「手数をかけずに攻めてくるチームだ。縦の意識が強いな。メキシコのチームらしい」

 準決勝で南米王者サントスと対戦したときは、こんな調子だ。

「CBはペナルティエリアには入れさせないディフェンスをする。それまでは自由にやらせてくれるけど、フィニッシュのところで体を強くぶつけてくる。これがブラジルなんだな」

 工藤は相手のスタイルや戦いの情勢を読み取りながら、自分の良さを出そうと冷徹に頭を巡らせている。つけ込む弱みはどこにあるのか。そうして思考を積み重ねることが、“戦闘者としての引き出しの多さ”になっている。

「今は試合に出て得られる経験が貴重です。海外移籍は早まるべきじゃない、と思いますね」

 淡々と語る工藤は慎重だ。同世代の選手たちが我先に海外に旅立つ中、工藤は“柏で地に足を着けて戦う”という意識が強い。ドイツのクラブからの打診が正式になったとしても、柏に残るつもりでいたという。

「自分は行きたいから行く、というタイプではありません。現実的なんです。海外のクラブの関係者が自分に興味を示してくれる、ということ自体は嬉しい。それはプロサッカー選手ですから。けど、(去年話があったときは)客観的視点で考えて、“違うな”と思いましたね。海外は必ず行かないといけない場所、とは思っているけど、いくつまでに行かないといけない、とも決めていなくて」

 持たざる者の強さなのだろうか。いや、単に持っていないだけの選手は数多くいるだろう。工藤は持たざる者であることを出発点に、持っている選手を輝かせる術を磨き、結果的に自分を輝かせる技術をも向上させてきた。その過程で、相手の選手の特長を観察し、動きを見抜く目も養ったのである。

 ユースからの戦友で同期入団の酒井宏樹は、2011年シーズンの華々しい活躍が認められ、ブンデスリーガでのプレイを選択した。しかし出番をつかむのに四苦八苦している。酒井と今も連絡を取っている工藤には、思うところがあるはずだ。

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