【なでしこ】2013年初勝利。
デンマーク戦で発揮された「日本らしさ」

  • 早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko photo by Hayakusa Noriko

「あれは......クロスですね。でも、GKが前に出ていたってことにしようかな(笑)。GKが触れない位置を狙っていたので、どっちに転んでも1点という際どいところを突きました」と川澄自身が語ったように、意図とラッキーがあいまったゴールは、日本にとって今大会初の先制点となった。

 追加点は41分。宇津木からのロングボールが前線でフリーの大儀見優季の足もとにピタリと入ると、あとは大儀見がGKを落ち着いてかわしてゴール。

 後半、デンマークは途中出場のナディムにロングボールをあててくる程度で、大きな揺さぶりもなく、リードしている日本も積極的に仕掛けず、展開は落ち着いてしまった。その後、日本は高瀬愛実や田中美南らを投入して追加点を奪おうと試みるものの、結果には結び付かず。それでも、前半で2得点を挙げた日本は、大きなピンチを迎えることなくデンマークをねじ伏せて、今大会初勝利を手にした。

 世界ランク13位のデンマークは格下とはいえ、フィジカル、組織力もヨーロッパでは屈指の実力の持ち主。初戦はドイツに引き分けるなど、佐々木則夫監督が注目していたチームでもあった。しかし、前半こそ、中盤でのせめぎ合いからデンマークにパスを展開されることもあったが、後半には、大儀見と永里亜紗乃の姉妹ツートップがポジションを下げてプレスをかけることで守備は修正された。

 この試合のポイントは豊富な運動量で攻守に絡み続けたボランチの宇津木だった。ロンドン五輪前のスウェーデン遠征で右膝の内側副靭帯損傷により離脱するまで、度々出場チャンスを得ていたものの、澤穂希&阪口夢穂のボランチコンビと比較すると、どうしても守備的な配置になることが多く、攻撃センスを活かし切れていなかった。今大会、長く陥っていたそのジレンマから、宇津木は解放されていた。

 宇津木の攻撃センスが今大会では発揮されるシーンが増えてきている。「瑠美からは本当にいいボールが出てくる」とは、ダイレクトで裏へ抜ける攻撃を渇望し続けている大儀見だ。このメンバーでは、複数選手でパスをつないで崩すなでしこのスタイルに加え、大儀見の裏のスペースへの突破力を活かすパスが多い。その出所となっているのが、なでしこジャパンでトップレベルの技量を備えている宇津木だ。2点目の大儀見のゴールも、宇津木の鮮やかなロングパスによってもたらされたもの。

「代表復帰というので、怖い気持ちもあった。でも本当にケガをしてよかったじゃないですけど、オリンピックに出られなかったことで、自分はもっと強くなれたと、今は素直に思えるんです」(宇津木)

 とにかく動いてプレスをかけ、ボールを取りきれなくても相手を遅らせ、カバーに入る選手に託す。なでしこサッカーの基本ではあるが、これを実際に中盤のプレッシャーの中で可能にできる選手は少ない。

 もちろん、宇津木のスタミナにも限界がある。それも、大儀見らFW陣がポジションを下げて守備に参加することで負担が軽くなる。攻撃に出たいFW陣がどこまでプレスをかけられるのかはこれから調整が必要だが、うまくラインが構築できればこれまでとは違った攻撃パターンが生まれるかもしれない。

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