ロンドン五輪決勝で、宮間あやの涙が止まらなかった理由

  • 早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko
  • photo by Hayakusa Noriko/JMPA

「誰ひとり欠けても、ここへは来られなかった。みんなとこうしてプレイできることを感謝してる」

 もう迷いはなかった。間違いなく宮間が目指す〝チーム〟になっていた。選手たちは試合前やゴール後、必ずバックアップメンバーのいるスタンドに手を振るようになった。前半を終えて戻ってくる選手たちを、ベンチメンバーは揃って迎えるようになった。すべては、準々決勝から見られるようになった光景だった。

 決勝戦。日本唯一のゴールは宮間の一手から始まった。アメリカと互角以上の戦いを見せたその陰に、宮間の苦悩と奮闘があったことは、すべての選手が感じていた。

「これが最後のつもりで戦いたい。すべてを賭けます」

 決戦前に発した言葉どおりの決勝戦。戦いを終えた宮間が号泣したことには、驚かなかった。崩れた宮間に一番に歩み寄ったのは、五輪予選でミスに泣いた近賀ゆかりだった。あのときは宮間がずっとそばについていてくれた。スタンドに挨拶する間、泣きじゃくる宮間を抱きしめていたのは、ドイツワールドカップ準々決勝で途中交代させられて涙した〝永里〟だった。あのときは宮間がその手をつないでくれた。ピッチを去る瞬間、宮間の肩を抱いていたのは、右サイドとして1年悩み続けた大野だった。あのときは宮間がその苦しみを一緒に背負ってくれた。

 全員が宮間を想った。これが、宮間のチーム。いいチームになった。宮間がすべてをかけた〝チーム〟は史上初の五輪メダルを手にした。

 銀メダル――。これほどまでに誇らしい〝2位〟があることを教えてくれたのは、宮間だったのかもしれない。

『Sportiva ロンドン五輪・速報&総集編』(2012年8月17日発売)より転載
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