【名波浩の視点】欧州遠征でザックジャパンに求めるもの

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 しかし、結果は0-5と大敗。メディアでは「サンドニの悲劇」などと言われたりしたが、あれは「悲劇」でもなんでもない。単に自分たちの力がなかっただけ。当時のフランスは1998年W杯優勝国で、EURO2000を制したばかりの、まさに世界一のチームだった。ジダンをはじめ、アンリ、ピレス、デサイーなど世界的なスターがバリバリの頃で、そんな相手に、当時ローマ(イタリア)に在籍していたヒデ(中田英寿)以外は何もできずに帰ってきた。

 そのときから比べると、今のフランス代表の力は落ちているかもしれない。欧州で10番目くらい(FIFAランキング13位※10月10日現在)の実力だと思う。でも、ベンゼマやリベリーをはじめ、世界的にメジャーな選手はたくさんいるし、欧州先進国の強豪クラブに在籍しているメンバーばかり。強豪国であることに変わりはない。

 翻(ひるがえ)って日本は、2001年と今回とでは、次元がまったく違う。フランス代表の選手が日本代表の選手のことを知っている、という点だけでも、それは明らかだ。試合に臨むスタンスにしても、まったく異なる。だからこそ、今回の欧州遠征における周囲の期待度は相当なものだし、求められていることもかなり高いレベルにある。

 そういう意味では、当然、結果を出してほしいと思っている。相手が違う戦い方をしてくるアジア予選に直結する材料になるかどうかは別として、あくまでもW杯本大会に向けて考えれば、もしフランスに勝つことができたら、その実績はかなり大きな自信につながるからだ。もちろんブラジル戦もしかりで、今回結果を出すことができれば、選手たちの自信は一層増して、チームはさらに強くなっていくと思う。

 逆に、例えば0-3で負けた場合、ポジティブに「自分たちはまだまだ」と思って新たな向上心が持てるという面もあるかもしれないが、それよりも、これまでの結果が「やっぱりアジアだから......」という意識のほうが選手に強く芽生えてしまいそう。日本は今、順調に伸びてきている段階にある。そういう状況では、鼻をへし折られるより、手応えや自信を得ていくほうが、選手にとっても、チームにとってもプラスになるはずだ。

 そのためにも、ポイントとなるのは、守備では高い位置でボールを奪って攻撃に転じるという、自分たちがずっとやってきたことをイメージどおりにできるかどうか。攻撃では、素早い展開からどこでポイントを作って、どこで選手が連動して、チャンスを演出できるか。そのうえで、ゴール前に何人の選手が飛びこんで行けるかが重要になる。相手の守備や反撃を怖がって、ひとりとかふたりとかしか行けないといった、消極的な攻撃にならないようにしてもらいたい。

 あとは、今は欧州で活躍している選手がたくさんいる。移動のことを考えれば、今回はコンディションもいいだろうし、高いパフォーマンスを発揮できると思うので、彼らの奮闘には期待したい。そして、これまでにやっていないことも試してほしい。例えば、乾貴士や宮市亮など、出場機会の少なかった選手を先発で起用するとか、香川真司や清武弘嗣をトップ下で試すとか、強い相手とやるからこそ、新たなチャレンジも見てみたい。

プロフィール

  • 名波 浩

    名波 浩 (ななみ・ひろし)

    1972年11月28日生まれ。静岡県藤枝市出身。1995年、ジュビロ磐田に入団し一時代を築く。日本代表では10番を背負い初のW杯出場に貢献した。引退後は、ジュビロ磐田のアドバイザーを務めるとともに、テレビ朝日『やべっちF.C.』などサッカー解説者として活躍

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