【なでしこジャパン】 サブメンバーが躍動。
ブラジルに快勝して代表枠18名の争いは最終段階へ

  • 早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko
  • photo by Hayakusa Noriko

 しかし、もっとも目を引いたのは後半途中から投入された菅澤優衣香だ。「今回一番伸びた選手」と佐々木監督の頬をゆるませた21歳のFWは、近賀ゆかりのオーバーラップからの精度の高いニアへのクロスにしっかりと合わせて、日本の優勝を決める4ゴール目をもたらした。

 菅澤はアルガルベカップでも近賀からのクロスをニアで合わせたが、今回も同じような形での得点。「合わせるだけでよかった」と本人は言うが、実は菅澤自身は、ニアに合わせるのはあまり得意ではない。それでも、なでしこジャパンの得意技でもあるクロスへの対応を代表合宿で必死に身につけた。

「練習を重ねるごとに、周りと息が合ってくるのがわかる。自分も"なでしこジャパン"の一員としてしっかりとプレイできる自信が少しずつついてきた」と本人も成長を実感している。

 これまではベストメンバーを3枚も欠くことになると、チーム力はガタ崩れだったなでしこジャパン。しかし、ワールドカップで強豪国との個の力の差をまざまざと見せつけられたサブ組が奮起。ここへ来て一気に底上げの成果が現れ始めた。

 とくに今回のキリンチャレンジでアピールに成功したのが、DF矢野喬子、MF宇津木瑠美のふたり。それぞれ経験値は高いがそれを十分に生かせずにいただけに、このチャンスにかける思いは強く、ともに気迫のこもったプレイの連続だった。

 さらには、待ち望んだ若手の成長もあった。メンバー入りはするものの、なでしこのサッカーを表現するには至らずという中途半端なゾーンに身を置く選手が多い中、そこからレギュラークラスを脅かす存在がどれだけ生まれるか......。これはロンドンでのメダル獲得への最大の課題だったが、ようやく、殻を破る選手が現れ始めた。

 前出の菅澤はアルガルベから今回の合宿と、"なでしこ漬け"になったことで即戦力へと成長した。前線でのボールキープ、コンビネーションに対応できる柔軟さと決定力は頼もしい限りだ。

 そして田中。澤不在のボランチでひときわその能力の高さを示した。時には危険なミスも犯すが、この時期にはどんどんミスをして、それを克服すればいいだろう。大切なのは同じミスを繰り返さないことだ。ここからはその背中を追い続けてきた澤と真正面からポジション争いをする立場になるが、澤の定位置を奪い取るくらいの気迫を見せてほしい。

 ロンドン五輪代表の"18名"へのアピール合戦はひとまず終了。選手たちは所属チームで"個"を磨く期間に入る。和歌山合宿(チャレンジプロジェクト含む)、アルガルベカップ、キリンチャレンジカップと30名以上の選手が試されてきたが、ワールドカップ戦士であっても、ロンドンまで残れる可能性が高いわけではない。

"18名"の内、現段階で空きがあるのはおそらく2、3枠だろう。その枠の争奪戦を当落ライン上にいる10名ほどの選手たちで争う形になる。チャンスをものにするには4月15 日から始まるなでしこリーグで猛アピールするしかない。もちろん、そこで新たな選手が出てくればさらに争いは激化する。

"18名"に入るための最後のサバイバルが始まった。

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