侍ジャパンを世界一へと導いた「言葉なき二刀流采配」 なぜ栗山監督は大谷翔平を理想の形で使いきれたのか

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 大谷翔平にトリセツはない。

 しかし、ひとりだけ、彼の取り扱いについて熟知している野球人がいる。

 それが栗山英樹監督だ。

 今年のWBCで日本を世界一へ導いた指揮官は、世界でもっとも扱いが難しい"ふたり" ──ピッチャーの大谷翔平とDHの大谷翔平を理想的な形で使いきった。それは栗山監督でなければできない芸当だった。

3大会ぶりにWBCを制した日本代表。MVPには大谷翔平(写真中央)が選出された3大会ぶりにWBCを制した日本代表。MVPには大谷翔平(写真中央)が選出されたこの記事に関連する写真を見る

【大谷翔平からの無言のメッセージ】

 そもそもの話は昨年の夏に遡る。

 7月のオールスターゲームに選ばれた大谷は、試合前日(7月18日)に行なわれたメディア・セッションで翌年のWBCについて問われ、前向きな言葉を発した。

「出たい気持ちはもちろんありますね。ケガとかもあってタイミング的に出られない年もありましたけど、出たい気持ちはもちろんありますし、自分に実力があるのであれば、選んでもらえるのであれば、プレーしたいなという気持ちはもちろんあるかなと思います」

 そして、栗山監督がエンゼルスタジアムを訪れたのは8月12日のこと。メジャーでの大谷のプレーをナマで見たのはこの日が初めてだった。試合後、栗山監督はこんなコメントを残している。

「野球の本場、アメリカのファンが、彼の動きを楽しみにしながら見ていたのが印象に残りました。そういう選手をひとりでも生み出したいと思っていましたから、それはうれしかったですね」

 もちろんこれはプライベートな観戦ではなく、WBCに向けた日本代表監督としてのメジャーリーグ視察だ。ダルビッシュ有や鈴木誠也など、ほかの日本人メジャーリーガーと会った際には食事をともにしたり、クラブハウスである程度の時間を使って、WBCに出場したいかどうかの意思確認や実際に出るとなった時に何をクリアすべきかといった現実的な課題まで、「WBC」というワードを軸に話をしてきたはずだ。

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