斎藤佑樹が語る「伝説の優勝スピーチ」と「持ってる発言」の真相。「自信がないことを悟られたくなかった」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

連載「斎藤佑樹、野球の旅〜ハンカチ王子の告白」第24回

 2007年6月4日、月曜日。明治神宮の絵画館前を出発した提灯行列のラスト──まだ陽が残る午後7時前、早稲田大学の大久保キャンパスから野球部の選手たちが行列に加わった。斎藤佑樹も西早稲田キャンパスの正門まで、野球部の仲間たちと明治通りを約50分、練り歩いた。そして大学構内の特設ステージで行われた優勝祝賀会でマイクを渡されると、顔を紅潮させてこう叫んだ。

「自分がいるこの4年間、再び早稲田黄金時代を切り拓きたいと思っています。わが早稲田大学野球部は一生、勝ち続けます!」

早稲田キャンパスで行なわれた祝勝会でスピーチする斎藤佑樹早稲田キャンパスで行なわれた祝勝会でスピーチする斎藤佑樹この記事に関連する写真を見る

【早稲田OBの圧とイケイケの先輩たち】

 ......たしかに言いましたね、そんなこと(笑)。優勝を決めた早慶戦を終えて、早稲田の学校関係者の方から提灯行列とはこういうもので、スピーチはこういう感じで、その後はこんな流れになるからね、ということを事細かに説明されました。

 でも先輩たちからは「オレたちがこんな感じで言うから、斎藤はこんな感じで話したらどうだ」という、それとはまったく別のレクチャーを受けていたんです。その説明が対極というか(笑)、学校関係者はわりときっちり、でも先輩は勢いよくいっちゃえという感じで、違うことを言われていました。

 自分でもスピーチでは何をしゃべろうかとあれこれ考えているうちに、わけがわからなくなってしまいました。結果、僕が本当に思っていたことをそのまましゃべれたかと言われたら、その気持ちからはかけ離れたスピーチになってしまったんです。

 今でこそ僕も早稲田のOBだなんて胸張ってますけど(笑)、当時は自分なんてそのハシクレにも加えてもらっていないと思っていましたし、それこそOBには錚々たる先輩方がいらっしゃいました。だから勝手に圧を感じて、提灯行列という早稲田の伝統にしっかりと乗っからなければならないと思っていたんです。

 調子に乗ったことをするんじゃないぞというOBの方々の圧を感じながら、でも優勝して興奮している現役の先輩方はイケイケの感じを出してくる。早稲田大学はすごいんだというOBの方々と、勝った勝ったと喜ぶ先輩たちのアドバイスが合わさった結果の「わが早稲田大学野球部は、一生、勝ち続けます」というスピーチになったという......そんな感じでした。

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