斎藤佑樹が駒大苫小牧との決勝再試合で初球に投げた最強のボール。「あの夏の甲子園、僕は覚醒していた」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

連載「斎藤佑樹、野球の旅〜ハンカチ王子の告白」第18回

 夏の甲子園、決勝が終わった。しかし優勝校は決まらなかった。夏3連覇を目指す駒大苫小牧と夏の初優勝を目指した早実との激闘は延長15回、1−1の引き分けとなり、翌日、再試合が行なわれることになったのだ。夏の甲子園、決勝の再試合は松山商対三沢以来、37年ぶりのことだった。

駒大苫小牧相手に再試合でも好投を続ける早実のエース・斎藤佑樹駒大苫小牧相手に再試合でも好投を続ける早実のエース・斎藤佑樹この記事に関連する写真を見る

監督が言い放った衝撃のひと言

 前年の秋、明治神宮大会の準決勝で僕たちは駒大苫小牧に3−5で負けました。その駒苫に夏の甲子園の決勝で、勝てなかったけど負けなかった......正直、よくやったとみんなが思っても不思議ではありません。

 実際、甲子園大会の途中で「そろそろいいんじゃないか......」みたいな感じが漂っていましたからね。それも決勝が終わってからではなく、2回戦で大阪桐蔭に勝ったあたりから少し緩んだ空気になっていたような気がします。センバツVの横浜に勝った大阪桐蔭を倒して、爪痕を残したとでも言うんですかね。みんなのなかに何かしらの満足感はあったと思います。

 だから決勝で引き分けて宿舎に帰った時のミーティングでも、きっと和泉(実)監督は「おまえら、よく頑張った、今日はご苦労さん、明日、ラクになろうな」みたいな話をするんだろうなと思っていました。そうしたら監督の口から、ビックリするような言葉が飛び出したんです。「明日、絶対に旗、獲りにいくぞ」って、ものすごい勢いの喝でした。「うわっ、マジか」と思いましたね。

 もちろん僕も含めて勝ちたい気持ちはあったにせよ、あの言葉を聞いた瞬間、気を抜きそうなところでもう一回スイッチを入れられた気がしました。

 普通のミーティングなら何となくザワザワしているんです。みんな体育座りして、でも、ちょっと足を開いていたり、モソモソ動いていたり、何かしらの音が聞こえたりして、ダラッとしている。でも、あの時だけはその言葉を聞いた瞬間、全員がピッとなりました。僕は一番前に座っていたのに、ピーンと張り詰めた空気を背中で感じましたから......。

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