オリックス1年目のイチローは、伊良部秀輝のストレートに「速さを感じない」。松永浩美が振り返るレジェンドの原点

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo
  • photo by Sankei Visual

松永浩美が明かすイチロー秘話 前編

 かつて"史上最高のスイッチヒッター"と称され、長らく阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)の主力として活躍した松永浩美氏。オリックスには1992年まで在籍していたが、同年はイチロー氏が一軍の試合に初出場を果たしたシーズンでもあった。

 ともにスタメンに名を連ねることもあった松永氏が、デビュー間もない頃のイチロー氏の印象やエピソードなどを語った。

オリックス若手時代のイチロー(左)と仰木彬監督オリックス若手時代のイチロー(左)と仰木彬監督この記事に関連する写真を見る***

――イチローさんは、ルーキーイヤーの1992年に一軍デビューを果たしましたが、同年は打率.366でウエスタン・リーグの首位打者を獲得するなど、主に二軍で活躍していました。

松永浩美(以下:松永) イチロー(当時の登録名は鈴木一朗)という選手がいて、「よく打つらしいよ」といった話は、一軍の僕らの耳にも入ってきていました。

――実際に一軍でのイチローさんのプレーを見た時の印象はいかがでしたか?

松永 まず、「足が速いな」と思いました。足があるバッターだと普通のゴロでも野手が慌てるじゃないですか。昔で言えば、阪急の先輩だった福本豊さんが、ピッチャーゴロなのにファーストでギリギリアウトというタイミングがありましたが、やはり足は武器になります。

 普通の選手はスピードに乗るまでに2、3歩はかかるものですが、イチローは1歩目から速かった。打った瞬間に加速していくんです。あの"振り子打法"とうまい具合に連動していたんでしょうね。上げた右足を振り子のように揺らし、体を投手側にスライドさせながら踏み込んでスイングするわけですが、振り終わった時に1歩目が一塁に向かって進んでいることになりますから。

――プロ入り3年目に前人未踏の200安打達成するなど活躍し、振り子打法の特異性も相まって、イチローさんは瞬く間にスター選手にのし上がりました。

松永 振り子打法は新井宏昌さんが教えたと思っている人も多いでしょうが、教えたのは二軍の打撃コーチを務めていた河村健一郎さんなんです。現役時代の河村さんもバッティングフォームがじっとしているタイプではなく、バタバタと地団駄を踏むような感じで打っていました。

 昔は、くねくねしながら構える梨田昌孝さん(元近鉄)のコンニャク打法や、体を「く」の字に曲げて構える小川亨さん(元近鉄)など、構え方が個性的なバッターが多かった。河村さんは、「こういう打ち方もあるよ。俺はこんな打ち方をしていたよ」なんて言いながら、マンツーマンでイチローを指導していました。

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