広岡達朗が怒りのダメ出し「原辰徳には人を育てていく理念が見えない」。ヤクルトと巨人の「差」はどこにあるのか (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin
  • photo by Koike Yoshihiro

原監督は「弱いチームでやれ」

 そして広岡は、三軍制を敷いているがまったく機能していないと言いきる。

「支配下登録選手(67人)と育成選手(35人)を合わせて102人を統括するために、一軍、二軍、三軍と振り分けてあるのだけれど、わけのわからん外国人選手を次から次に獲ってきたら、二軍、三軍に希望なんか持てないだろう」

 ひとりのレギュラー離脱によってチームの戦力が極端に落ちないよう、絶えず各ポジションにライバルとなる控え選手を手塩にかけて育てる。そうすることでレギュラー選手も安泰とならず、切磋琢磨して互いに伸びていく。これがチーム力の強化につながっていくと、広岡は言う。

「今から45年以上前のヤクルト監督時代、万年Bクラスで史上最弱と言われたチームを強くするためには練習しかなかった。遠征先で球場入りする前に、宿舎の屋上にコーチと選手を集めてシャドーピッチングや素振りをさせた。監督が率先して『もっと腕を振れ!』『スイングスピードを上げろ!』と声を枯らして言ったものだ。そんなことをするチームは、今はどこもないだろう。あまりに練習されるものだから、コーチ陣から『監督、シーズン中にこれだけ練習させると選手たちが壊れてしまいます』と進言されたが、私は『選手が故障して優勝できないのなら仕方ないけど、元気な選手がいて優勝できないのは我慢ならない』と返した。

 時代錯誤だと思うだろうけど、劇的にチームを変革させるためには、ただ選手たちに練習させるのではなく、意識を変えていかないといけない。今の選手はただ一生懸命プレーしているだけで、勝利のためにひたむきやっているように見えない。やるべきことをやっていかないと、チームの成績は向上しない」

 広岡は45年以上前にやった指導方法を例に出したが、要は首脳陣も選手も一丸になって戦いに臨むべき姿勢が重要だということを言いたかったのだ。ベンチで踏んぞり返り、しかめっ面をしているだけでは勝利をたぐり寄せることはできない。

「『こうしたら勝てる』と教えられない監督はダメ。豊富な資金力、充実した戦力といった恵まれた環境のなかにずっといたら、監督として成長していかない。前からずっと言っているように、原には『弱いチームでやれ』と言っている。弱いからこそ見えるものがたくさんある。理論をわかったらできると思い込みがちだけど、理論は身体で覚え込まないとモノにならない。それは選手でも監督でも一緒である」

 指導者として、チーム状況を踏まえて理論を構築する作業は一朝一夕では身につかない。自ら汗をかき、四六時中野球のことだけを考え勉強することで、やっと光がぼんやり見えてくる。

 FAやトレードといった安易な方法ではチームは強くならないとすでに実証されているのに、性懲りもなくそれを繰り返している巨人に対し、広岡は怒りしか覚えないのだ。昨年オフに新たに年契約を結んだ原監督の手腕を、はたして残りのシーズンで見ることができるのだろうか......。

(文中敬称略)

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